沈みゆく都、ベネチアの危機

1987年に街全体が世界遺産に登録された、海上に浮かぶ水の都ベネチア。誰しもが一度は行ってみたいと思う場所ではないでしょうか。

そんな世界中の憧れの地ですが、近い将来に存続が危ぶまれる「危機遺産」に登録される危険性があるという難題を抱えています。

第一の要因は、地球温暖化などの影響による水位の上昇です。イタリア国立地球物理学火山研究所などの研究によると、2100年には平均海面が最大約108センチ上昇すると推計され、水没してしまうというのです。そんな中、水位上昇を防ぐ策として「モーゼ」という巨大水門が建設されました。高潮予報を受けると、海底に沈められた長さ18~29メートル、厚さ3.5~5メートルの巨大な扉が起き上がり、入り口を塞ぐことで水の流入を防ぎます。総工費約6500億円、さらに年間約119億円の維持費がかかるとされており、非常にコストがかかるプロジェクトです。さらにモーゼが稼働すると船が出入りできなくなってしまうという問題もあり、まだまだ改善点は少なくありません。

もう一つの要因はオーバーツーリズムです。その人気から毎年非常に多くの観光客で賑わっています。筆者も今年の3月にベネチアに訪れた際には、歩くのが困難なほどの人で溢れ、少し移動するにもかなりの時間を要しました。また、観光客によるものと思われるゴミや落書きを見かけることも多く、押し掛ける観光客が都市の景観と住民の生活環境に悪影響を及ぼしていると感じました。住民と観光客との間のトラブルも多いそうで、近年は住民が次々とベネチアを去っている現状があります。イタリア政府は、徒歩で観光するグループの人数を1団体あたり25人までに制限することや、観光客から入場料を徴収するという世界初の試みを試験的に実施することなどを発表しています。

オーバーツーリズムによる問題はベネチアに限った話ではなく、私の住む京都府でも抱えています。多くの人にその街の魅力が伝わり、実際に足を運んで楽しんでもらえるということは住民にとって喜ばしく、誇らしいことだとは思います。しかし、不快な思いをさせられることもあり、対応が迫られています。

ルールとモラルを遵守し、みんなが快適に暮らせるように行動すべきです。互いを思いやるという共通意識を持つことが問題解決の糸口となるでしょう。世界に誇る水の都がこれから先も存在し続けるために今一度、観光に訪れた一人ひとりの行動が及ぼす影響を考えるべきだと気付かされました。後世の人々にもベネチアを満喫してもらうためにも、早急に問題が解決することを祈っています。

〈参考記事〉

2022/9/8付 日本経済新聞デジタル「ベネチアの水没救うモーゼ計画 生物多様性は守れるか」

2023/2/25付 朝日新聞デジタル「干上がった『水の都』ベネチア、川底丸見えに 欧州で深刻な干ばつ」

2023/9/15付 朝日新聞デジタル「ベネチア『危機遺産』見送り」

2023/9/13付 朝日新聞デジタル「観光客増えすぎ、ベネチアが『入場料』ピーク時に試験導入へ、日帰り客対象」

〈参考資料〉

国土交通省気象庁「2024年2月28日発表 日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」

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