明日で8年 被災地は記憶を刻み続ける

2016年4月、震度7の地震が二度、熊本を襲いました。熊本県内では災害関連死を含めて270名以上の死者と20万棟ほどの建物が被災。雄大な自然が広がる阿蘇地方でも大きな被害がありました。

最初の大きな揺れは4月14日午後9時26分。阿蘇地域では最大震度5弱(南阿蘇村)を観測しています。この地震での被害は少なかったようです。しかし、28時間後の4月16日午前1時25分、最大震度6(同村)の大きな揺れが街を襲いました。断層が出現するほどの揺れで多くの家屋が倒壊。阿蘇と熊本を繋ぐ交通の要衝・阿蘇大橋の崩落などインフラの遮断によって、避難生活を余儀なくされました。

筆者撮影:崩落した阿蘇大橋(南阿蘇村・24年3月22日)

筆者撮影:保存された断層(熊本地震震災ミュージアムKIOKU(南阿蘇村)・24年3月22日)

一連の地震で震度7が二度観測されたのは初めてでした。後に「前震」と呼ばれる大きな揺れの後、気象庁は「今後1週間程度は余震に注意」と呼び掛けていました。その後、さらに強い「余震」が熊本を襲いました。後にこの揺れが「本震」と呼ばれるようになります。

これを機に、本震よりも揺れが小さい印象を与える「余震」という表現は使われなくなり、大きな揺れの後は、「今後1週間程度は同程度の揺れに注意」と呼び掛けられるようになりました。この表現はよく見聞きすることがあると思います。熊本地震の教訓は、日々の生活に活かされていることがわかります。

震災から8年を迎えるにあたり、私は昨年南阿蘇村にオープンした「熊本地震震災ミュージアムKIOKU」を訪れました。震災に関する展示や遺構を見学し、地震のメカニズムや防災について学べる施設です。被災した東海大学阿蘇キャンパス(農学部)の跡地に建設されました。

筆者撮影:発災時間(午前1時25分)を示したまま止まった時計(熊本地震震災ミュージアムKIOKU(南阿蘇村)・24年3月22日)

旧東海大学阿蘇キャンパス1号館・震災時、断層が建物中央を通過した(熊本地震震災ミュージアムKIOKU(南阿蘇村)・24年3月22日)

現在、被災した1号館が震災遺構として保存されています。三つの建物に見えますが、震災前は一つの建物だったそうです。外壁や床の亀裂、倒れた椅子や棚、貼られたままの2016年4月のカレンダー。災害後の様子が生々しく遺されています。

震災前から大学周辺に住んでいたというガイドの方は、「前は周辺にアパートがあり、学生で賑わっていた。寂しくなった。」とキャンパス跡地の向かいにある平地を指さして当時の状況を説明してくれました。地震当時、このキャンパスでは約1000人の学生が学んでいました。現在は、隣の益城町にある熊本空港近くに「阿蘇くまもと臨空キャンパス」として移転しています。若々しい声が溢れていたはずの空間も、今は風の音が聞こえるのみ。遺された建物や基礎部分が、ここに人の営みがあったことを静かに示しています。

地震について知ることで、我々にできることは何でしょうか。被災地を訪れてみるのもいいかもしれません。足を運ぶことは復興の加速に繋がるはずです。南阿蘇村では、21年3月には新阿蘇大橋が完成。23年7月15日には南阿蘇鉄道が全線復旧。同じ日に先述した「KIOKU」もオープンしました。被災地の時計の針は動き続けています。

筆者撮影:新阿蘇大橋(南阿蘇村・24年3月22日)

もっと身近でできることもあると、被災地を訪れて再確認できました。身の回りの防災のチェックです。「最低でも3日分の水は常備してほしい。水が無いのが一番困った」「車中泊にも耐えられるように、ガソリンは常に余裕を持たせる」。KIOKUの見学中、ガイドの方が実体験をもとに伝えてくれました。保存食や携帯トイレの常備、避難経路の確保など、常日頃から意識しておくことの重要さは、頭で分かっていても行動に移しづらいものです。ただ、ガイドの方々との交流や遺構の見学から、身の回りの防災について真剣に考えるようになりました。簡単にできる対策から見直してみると、思わぬ改善点が見つかるかもしれません。

「防災は、自分のためだけじゃない。自分が生き延びることで 大切な誰かを悲しませないように、そして生き残って大切な誰かを救うために必要なんです」。KIOKUに置かれていた『震災遺構ガイドマップ』に、語り部の講話の一部分が載っていました。

前震が発生してから、明日で8年となります。これを機に、震災について学びなおしましょう。教訓を生かし、身の回りの防災について考え直してみましょう。被災地の記憶が心に刻み込まれ、いつまでも伝えられるように。

 

参考記事

阿蘇の玄関よみがえった 新阿蘇大橋が開通 [熊本県]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

2021年3月8日

熊本地震の被災車両など記憶つなぐ展示施設が完成…東海大阿蘇キャンパスの跡地に:地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

2023年7月13日

復興の期待乗せて出発、南阿蘇鉄道が全線再開…「住民の流出止まってほしい」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

2023年7月15日

熊本地震で被災の南阿蘇鉄道、全線運転再開 7年ぶり – 日本経済新聞 (nikkei.com)

2023年7月15日

 

熊本地震から5年 この教訓で消えた「余震に注意」 – ウェザーニュース (weathernews.jp)

2021年4月16日

熊本地震から7年…「震災遺構」旧東海大学阿蘇キャンパスが移転 新校舎に学生の声響く|FNNプライムオンライン

2023年4月14日

 

参考資料

記憶の廻廊について | 熊本地震震災ミュージアム (kumamotojishin-museum.com)

『震災遺構ガイドマップ』20210300shinsaiheritage.pdf (minamiaso.info)