毎日握る、早朝から働く人のために 輪島でおにぎりを配る大学生

能登半島地震の発生から1日で3か月。震度7の揺れが襲った石川県輪島市では、全国からボランティアが訪れて、炊き出しや瓦礫の撤去作業などにあたっています。大規模な火災が起きた「朝市通り」の近くでおにぎりを作って配る「輪島朝市むすび」で活動する大学生に、被災地でどのような思いで活動しているのか、お話を伺いました。

 

ボランティアに参加している立命館アジア太平洋大2年の北村優斗(きたむら・ゆうと)さんは、地元の長野県で起きた豪雨災害を思い出して、現場に駆け付けることにしました。2019年、当時高校生だった北村さんの周辺に家屋が浸水して困っている人が大勢いながら、自分は何もできなかったことが心残りだったといいます。

大規模な火災が発生した「朝市通り」付近、石川県輪島市河井町の様子(3月14日、筆者撮影)

「地震があった1月の下旬、何か手伝えることはないかと、輪島、能登、珠洲に足を運び、被災地の様子を見て回りました。そのなかで、ボランティア団体の方々と知り合い、輪島の朝市通り近くのお菓子屋・中浦屋の店舗を借り、おにぎりの炊き出しを始めることにしました」

「輪島朝市むすび」の活動場所である中浦屋の店舗(3月14日、筆者撮影)

「2月20日から始まったボランティアの様子を自分のSNSに投稿したところ、多くの人が参加してくれて、現在までに30人以上が手伝ってくれました。炊き出しは早朝から。きっかけは力仕事をしている町の人の悩みを知ったことでした。体力を使うのでエネルギーが出るものを、早朝の仕事に間に合うように食べられる場所はないか。そんな相談を受けて、現在では午前6時から仕事に向かう人におにぎりとみそ汁を提供しています」

活動拠点の2階に寝泊まりしている学生たちの一日は朝5時から。数日間手伝う人から一か月を超える人までボランティアの期間は様々で、基本的に1日6人ほどで回しています。学生たちが一つずつラップに包んで握るおにぎりは、塩キャベツ、さつまいも、カレーピラフ、さばみそ、大根を漬けた「黒はり漬け」まで種類豊富です。それに加えてみそ汁も用意しています。「同じ輪島市でもまだ水が出ないところがある中で、ここは水もガスも使えて助かります」と北村さん。町の人から食材を提供してもらうこともあり、筆者が取材した3月15日には、前日に頂いたというセロリを使ったコンソメスープを作っていました。

炊き出しで提供しているおにぎり(3月14日、筆者撮影)

「最初は本当におにぎりをもらいに来てくれるのかという不安があった」(北村さん)といいますが、活動を続けるなかで町の人々に知ってもらえるようになり、今では毎日70人もが訪れるそうです。

おにぎりを渡す北村さん(3月15日、筆者撮影)

60代の女性はテレビでこの炊き出しを知り、初めて訪れました。「おにぎりをいただけてありがたいです」と話していました。女性は「朝市通り」の近くに実家があり火災で全焼してしまったといい、「今でも何度も家の跡を見に行っている。懐かしい家なので」とも話してくれました。

筆者が取材した14日は日が暮れた午後6時ごろまでの活動でした。店を閉めた後は残ったおにぎりなどをみんなで食べながら、翌日以降の計画を話し合います。

日が暮れるまで炊き出しは続いていた(3月14日、筆者撮影)

北村さんがボランティアをしていて特に印象に残るのは、ボランティアを始めて約3週間が経った3月11日の朝。仕事に向かう前の7人ほどが炊き出しに訪れました。「月曜日の朝、いきなり6時、7時に現場に行って仕事を始めるのはしんどいから本当に毎日ここに来ていると助かるんだよ」と話してくれて、帰り際には「今日もがんばるわ、いつも力になっているよ」と声を掛けられました。

北村さんは、朝早く力仕事をしている方々という本当に届けたかった人たちに思いが届いていると実感できたといいます。早朝の短い時間のふれあいですが、とても幸せな時間だったと振り返ります。

 

北村さんのSNSを見てボランティアに参加した慶応大4年の曹篠露(そう・るみ)(※竹冠の下に「木」のない「篠」)さんにも話を聞くことができました。炊き出しをする上でいつも心がけていることがあるといいます。それはここに来たら元気になってもらえるように、明るいテンションで一緒に話をすること。「笑顔になってもらいたい」と話します。

曹さんは、被災地に実際に来てみて人とのつながりの大切さを実感したといいます。「私たちの炊き出しもたくさんの人に支えてもらっていますし、何か困っていることがありましたら手伝いますよと言ってくださる町の人もいます。お互いにできることをやってできないことを補い合うことが大切だと感じました」

「輪島朝市むすび」のメンバーたち。座っている男性が北村さん、座っている女性が曹さん(3月14日、筆者撮影)

筆者が話を伺った日は、お昼までに握ったおにぎりは300個を超えていました。時には、常連さんから「ご飯を炊くときにもう少し水を入れたほうがいい」とのアドバイスの声も聞かれます。おいしいごはんができるよう学生たちは試行錯誤を続けています。学校での炊き出しや片付けの依頼を受けることもあり、少しずつ活動の輪が広がっています。町の人々とのつながりを大切に、今日も朝5時からおにぎりを握っています。

 

参考記事:

1日付朝日新聞朝刊(東京14版)一面「家族で帰る 希望は捨てない」

1日付読売新聞朝刊(東京12版)特別面「焼かれた大地 花は咲く」

3月14日付北陸中日新聞(12版)社会面「朝市おにぎり 元気の源に」