自分が記録を更新するわけでもないのに、なぜか今からドキドキしている。藤井聡太八冠が3月17日のNHK杯決勝と棋王戦第4局のどちらにも勝利すれば今年度47勝7敗で年間勝率は0.870(8割7分)と、中原十六世名人が1967年度に打ち立てた0.855(8割5分5厘)という約50年間破られなかった大記録を超えることになる。
あまりに藤井八冠が勝ちすぎるため「勝率8割7分」という言葉に驚かないことこそが、強さの最たる指標なのかもしれないが、今回はこの記録がいかに規格外のことなのか、将棋オタクの筆者が勝手に解説していきたい。
そもそも棋士というのは3局やって2局勝つ、つまり6割6分のペースで十分力があると言える。今年の年間勝率トップ10は、高見泰地七段の0.684(6割8分4厘)であることを考えても妥当なラインだろう。トップ20に広げても村中秀史七段の0.633(6割3分3厘)で、6割を越えたら上り調子の棋士と言って良い。(どちらも3月16日確認時点での記録)
これだけでも「8割7分」が十分すぎるほど凄まじいことは理解していただけるはずだが、さらにもう1つ特筆すべき点がある。それは対戦相手の格の違いだ。
一般的に勝率記録というのは勢いのある若手の内に出しやすい。かつて藤井八冠がデビュー時29連勝で世間を賑わしたことを思い出してほしい。中原十六世名人が持つ記録もC級1組という全5クラスの内、下から2番目のクラスに在籍していたころの記録だ。強くなればなるほど対局相手がトップ棋士中心になるので自然と勝率は落ち着いてしまう。歴代年間勝率ランキングトップ10でも、1995年の羽生七冠の例外を除けばほとんどがC級1組かC級2組のどちらかに所属中の記録である。そんな中、八冠となり戦う相手のほとんどがタイトル挑戦者か一般棋戦本戦に残る強豪かの2択にもかかわらず、この勝率なのである。
「記録は破られるためにある」という言葉があるが、本当に今回更新されれば不滅の記録になると思わされる。事実半世紀近く更新されなかったのだから。将棋がわからない、興味がないと言う人もぜひ年間勝率が更新されるかには注目していただきたい。この機会を逃すと少なくとも私たちが生きている間の更新は望めそうにない。
参考記事:
8日付 読売新聞オンライン 「将棋・藤本渚四段、年間勝率の歴代1位の更新ならず…佐々木大地七段に敗れる」将棋・藤本渚四段、年度勝率の歴代1位の更新ならず…佐々木大地七段に敗れる : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
参考資料;
日本将棋連盟 「今年度棋士成績・記録」
今年度棋士成績・記録|成績・ランキング|日本将棋連盟 (shogi.or.jp)
日本将棋連盟 「歴代ベスト記録・ランキング」