日本経済新聞の1面「テクノ新世」は、人工知能や遺伝子技術など、最新のテクノロジーが導く人類の未来像を示してきました。本日から朝刊2面でスタートした新連載「長い豚の話」は、作家・円城塔氏の想像力を手がかりに、それらの技術が生活に根付いた人類の未来を探るものです。北極圏への移住者から始まる、世代を超えた物語。近未来の可能性にワクワクすると共に、自分が今まで必要と信じ育んできたものの持っていた力が危うくなることへの暗い気持ちも湧き起こりました。
誰もわからない未来を前に、私たちはどんな力を身につけるべきなのか。学校の勉強にはどんな意義があるのか。「優秀」な人とは、どんな人なのか。これから「学び」に向き合う人たちに、その意義をどう伝えていくべきか。前回のあらたにすに引き続き、筆者が持つ教員免許の教科、中学校社会科で考えてみたいと思います。今回のテーマは、学校で習得すべき暗記などに代わる力について。
■学校では「学び方」の習得を
生成AIがなんでも教えてくれるような時代。私たちが社会科のテストのために一生懸命覚えた、些末な知識を暗記する必要性は落ちてきました。代わりに体得すべきなのは「学び方」だと考えています。
近年、小学校を中心に広がりを見せている新しい授業の形「自由進度学習」をご存知でしょうか。その名の通り、授業の進度を学習者が自ら自由に決められるのです。例えば「首都の役割を愛知県に移動させることは可能か?不可能か?」という問いの答えを見つけるために、数時間かけて各々で問いを探っていく。何から学ぶか、誰と学ぶか、何を使って学ぶか、全て自分で決めます。上級者になると、初めの「問い」すら自分で立て、それを解いていくこともあります。
この方法では、学びのペースや興味が多様な子どもたちが、同じ学級で、同じ1時間を有意義なものにできることが期待できます。一斉授業では早すぎて理解が追いつかない子、逆に遅すぎて退屈だった子、さまざまな「取り残され」ていた子たちの、伸ばしきれなかった力を引き出せる可能性が高いのです。
それだけではありません。子どもたちは自ら選択した方法で失敗や成功を繰り返すことで、自分にあった学び方を体得することになります。一斉授業では「教科書に書いてあることを体得」することをゴールに、教員が「次はこれを考えてみよう」と学びの手順を常に示します。しかし、教科書に書いてあることや、受験に必要な知識があれば、社会に出てどんな問題も解決することができるわけではありません。刻一刻と変わる時代に合わせて、必要な知識やスキルは変化していきます。小さい頃から自分で会得することに慣れていくことが必要です。
■「学び方」を学ぶと得られるもの
学び方を学ぶという意識があると、必然的に自分の学びをメタ認知※します。課題を解決するために何を学ぶことが必要なのか、自分の中で取捨選択し、優先順位を決めたりする必要があります。自分が今ゴールまでの道のりの中のどの立ち位置にいるのか、また、今学んでいることは社会の中の、学問分野の中のどの位置にあるものなのかを自ずと把握するようになります。
この習慣がつけば、常に、目の前の学びの意義を本質的に理解しながら学習を進めることができるでしょう。学校での学びが「偏差値」「高学歴」のためになってしまい、本質を見失う事態も回避できるようになるかもしれません。ひいては、自分が人生の中でどう学んでいきたいのか、自分にとっての豊かな人生とは何かを考える時間も増えるのではないでしょうか。
この力が必要なのは、子どもだけでなく、現代社会を、未来社会を生きることになる私たち大人も同様でしょう。揃って「学び」に向き合い続け、より良い形を探れば、自ずと「AIのある時代の教育」の形も見えてきそうです。学校教育の関係者や児童生徒に限らず全ての人が、「学び」を根源から考えることで、社会全体の教育観が絶えず時代に即した新しい内容に進化していくことを期待します。
【AI時代の「学び」①】はこちらから↓
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