災害への備え、できていますか? 防災を日常に忍ばせて

1月1日午後4時過ぎ、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生し、志賀町で震度7の非常に激しい揺れを観測しました。この地震により、能登半島を中心とした広い範囲で、建物やブロック塀の倒壊、火災、土砂崩れ、津波などの大きな被害が確認されています。

余震や大雨が続き避難生活の長期化も懸念される中、救命救助活動に加え、必要な物資の確保、電力や水道などインフラの復旧が急がれます。

 

筆者は小学2年生の時に宮城県で東日本大震災を経験しました。石川県、新潟県には友人が住んでいますが、災害が発生した際に一個人としてできることはごくわずかであることを実感し、歯がゆく思います。

能登半島地震で被災した方々を支援するための募金は、自治体や民間団体を通じて開始されています。一方で、個人による物資の提供や災害ボランティアは、交通渋滞などによる救命活動の妨げを防ぐため受け付けていません(4日時点)。

 

まず自分にできることとして、地震への備えを考えてみてはどうでしょうか。

地震が発生したらどうなるか。

停電や断水したとき、避難生活では何が必要か。

生活を再建するためには何が必要か。

一つひとつにありったけの知恵と想像力、行動力を動員することで、自分や周囲の人の命を守るのはもちろん、個人による物資の提供やボランティア派遣の受付が始まった際に、より被災地に寄り添った行動をとれるようになるはずです。

 

ここからは、地震発生前の備えとして個人にできることを考えていきます。

東京消防庁は、家庭での地震への事前対策として以下の10個の項目を挙げています。

上の表では備えの目的を3つに分類したのち、それぞれに求められる行動が細分化されています。一方で、各対策の優先順位は示されず、何から手を付けていいか迷ってしまうかもしれません。重要度が示されていないのは、住んでいる地域や家族構成、年齢、家の築年数などが人により異なることに配慮しているからとも考えられます。

しかし過去の地震における死因をみてみると、関東大震災では87.1%が火災、阪神淡路大震災では83.3%が建物倒壊による頭部損傷や窒息であり、命を守るためには火災や建物倒壊を防ぐことが急務であると言えます。

東京消防庁などのサイトによると、これらを防止するためには以下の対策が必要とされています。

 

また地震そのものから身を守ることに加えて、その後の避難生活などで命を落とす「災害関連死」も防がなければなりません。東日本大震災では3792人、熊本地震では地震で直接亡くなった方の4倍を超える226人の方が災害関連死により命を落としたとされています。

災害関連死は生活環境の悪化やストレスが原因とされていますが、その要因は複雑に絡み合っています。要因を分析すべく、死因と死につながる間接的な要因を結び付けて可視化したフローチャートを見てみましょう。

直接の死因は誤嚥性肺炎、エコノミークラス症候群、自殺、感染症など多岐に渡りますが、間接的な要因としては災害による精神的な負担や避難生活の環境の悪さが大きく影響していることが分かります。

東日本大震災では、宮城県気仙沼市で関連死と認定された人のうち109人の記録を収集・分析した結果、死因の70%余りが肺炎などの呼吸器系疾患と、心不全などの循環器系疾患でした。

 

フローチャートで「誤嚥性肺炎」に至るまでを見てみると、まず断水により水洗が使えなくなったり、避難生活で掃除がなおざりになったりすることで「劣悪なトイレ環境」に陥ります。次にトイレの使用を避けようと「排泄回数を減らす」ために「水分の摂取を控え」、「脱水症状」が起こります。その結果「口腔内の細菌が増加」し、「誤嚥性肺炎」となってしまいます。

これらの災害関連死を防ぐには、清潔なトイレ、温かい食事の提供、就寝環境の整備の3つが重要だとされています。しかし避難所の環境が改善されるか否かは、自治体や現場次第であることが実情です。個人でできる範囲では、災害を想定して多めの備蓄をしたり、災害時に使えるグッズの準備をしたりすることが大切だと考えます。

 

食料や飲料などの備蓄の目安としては、飲料水・非常食ともに3日分が推奨されています。乳幼児や高齢者の方、アレルギーや持病を持つ方に対応した食品は災害時に入手できない可能性が特に高いため、少なくとも2週間の備蓄が推奨されています。またトイレットペーパーやカセットコンロなどの日用品も十分な備蓄が必要です。

これらは防災のために特別なものを用意するのではなく、普段の生活の中で利用しているものを備えておくなど、日常生活の一部として防災を考えることが大切とされています。

水や食料を多めに買っておき、賞味期限が近いものから消費し、随時買い足していく「ローリングストック」が身近な例です。

 

家庭内での備蓄と合わせて、非常用持ち出し袋の準備も欠かせません。自宅が被災し安全な場所に避難するときに、必要なものをすぐ持ち出せるよう、あらかじめリュックサックに詰めておくことです。これらの備えにおいて何が必要とされるかは、子供や高齢者の有無や性別、季節などそれぞれの事情に左右されるため、災害発生前の準備が肝心です。

 

大規模な地震の発生は、決して他人事ではありません。

南海トラフ地震について、マグニチュード8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率が70~80%(国土交通白書2020)とされるなど、大地震発生の危険性が高まっています。地震調査研究推進本部事務局が発表した地震予測地図(2020年版)によると、今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が高い印である紫から赤、オレンジ色が広範囲に及ぶことが分かります。

『全国地震動予測地図2020年版「確率論的地震動予測地図」今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率』主な評価結果 | 地震本部 (jishin.go.jp) より引用

 

地震が発生すると揺れによる建物の倒壊だけでなく、津波や土砂災害を引き起こす危険性もあります。また、大雨や台風、大雪などと絡み合い、災害が複合して起こるかもしれません。今回の能登半島地震では、建物の倒壊や津波、土砂崩れ、液状化などの被害が発生しています。

 

まさかの事態が起こったときに、私の命を守れるのは私自身なのです。災害発生直後の行動だけでなく、その後の避難生活ではデマや偽情報に惑わされず自分で考えて行動することを迫られる場面も出てくるでしょう。

日常の延長線上に災害発生時に使えるものを備蓄しておくことに加え、日頃から家族同士の安否確認方法を話し合ったり、避難場所や避難経路を確認したりと、できることを進めておくのが大切です。

 

地震の際に何が起こる可能性があり、何が必要とされるかを知ることは、自分自身だけでなく、あなたの大切な誰かを守ることにも繋がるかもしれません。

まずはできることから始めましょう。

 

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ライフライン復旧までに必要なものリスト、筆者作成、参照:災害に備えて必要な備蓄品、防災グッズをリストで紹介 – NHK

 

 

非常用持ち出し袋リスト、筆者作成、参照:災害の「備え」チェックリスト(首相官邸)

 

【参考記事】

2024年1月5日付 読売新聞朝刊[東京14版]「死者84人・不明185人 能登地震72時間経過」関連記事

2024年1月4日付 北陸中日新聞Web 「【能登半島地震】被災地を支援するには? 義援金→受付開始、ボランティア→受け入れはまだ」

 

【参考資料】

火災 倒壊 津波 被害はどこで?令和6年能登半島地震 石川県の被害をマップで NHKの取材映像から | NHK | 令和6年能登半島地震

参考資料7 過去の地震における死因 : 防災情報のページ – 内閣府 (bousai.go.jp)

防災の手引き~いのちとくらしをまもるために~ | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

“能登半島地震 南海トラフで想定される被害起きた” 専門家|NHK 高知県のニュース

能登半島地震 揺れ・避難・停電・断水・安否確認・支援 気をつける注意点やポイントは? – NHK

災害が起きる前にできること | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

地震・津波 発生時の身の守り方 備え・対策・防災グッズをイラストで – NHK

松田曜子、岡田憲夫「災害の間接的経験と家庭での地震の備えの関連性分析」土木計画学研究・論文集No.23 no.2、2006年9月