一票の格差は解消されるのか

学校の生徒会選挙では一人一票、みな平等な権利が与えられます。どの一票も同じ価値を持ちます。しかし、大人の世界の選挙ではそうはいきません。住む場所によって一票の価値が変わってしまうのです。人口減少が深刻化し、地域格差が進行する日本では、これまでも一票の格差が問題になっていました。昨年には参院選挙の合区を盛り込んだ改正公職選挙法が成立しました。今回、是正に向けまた新たな動きがありました。

 

28日、自民、公明の与党が提出した選挙制度改革法案が衆院を通過しました。参院の審議を経て、5月中旬にも成立する見通しです。与党は、二段階の改革を打ち出しています。まず2015年の簡易国勢調査をもとに小選挙区で6、比例代表区で4の議員定数を削減し、一票の格差が2倍未満になるように区割りをします。来夏からの施行が有力です。次に第二弾として、2020年の国勢調査以降、アダムズ方式が導入されます。人口の変動に合わせて都道府県定数や区割りを10年ごとに配分する、という抜本的な見直しが行われることになります。

 

改革の背景にあるのは、09年以降、過去3回の衆院選挙での格差を「違憲状態」とした最高裁の判決です。最高裁はこれまで、各県に一区を割り振り、残りの議席を人口比で振り分ける従来の「一人別枠方式」に疑問を呈してきました。それに代わるものとして注目されたのがアダムズ方式です。

 

この方式にはどのような特徴があるのでしょうか。まず、人口の多い都道府県ほど議員の当選枠を多く配分するやり方で、有権者数の変動にも対応します。一方、人口の少ない県に比較的配慮する方式でもあります。1996年に小選挙区並立代表制が導入されてからこれまで、議席数の抜本的な改革はありませんでした。このため都市化が進む人口変化に応じて格差を是正し続ければ、結果として地方の議席数は減るばかりで、地方の声が切り捨てられる懸念がありました。

 

焦点となったのは、アダムズ方式の導入時期です。民進党は2010年の国勢調査に基づきアダムズ方式を採用する案を提出しましたが、否決されました。地方創生を唱える安倍政権の政策方針にそぐわないうえ、保守勢力の強い基盤である地方の議席数を減らせば与党に不利に働くことは必至です。自民党の思惑が見え隠れしています。新制度が施行されるまで、憲法の理念に反した選挙が繰り返されることになるとの批判もあります。

 

是正に向けて一定の進歩はありましたが、憲法14条における「法の下の平等」の実現のためには、政府の迅速な対応が求められます。

 

アダムズ方式のもう一つの特徴は、どう考えたらいいでしょうか。議員の削減効果です。政府による2020年の人口推計で計算すると、選挙区で「9増15減」、比例区で「3増7減」となります。定数減は、消費税の引き上げで国民に負担を強いた見返りとして多くの党が公約に掲げた経緯があります。ただし議員の削減が必ずしも国民のためになる、というわけではありません。市民の代表者である議員によって多様な民意を反映できることが民主主義の根幹をなすからです。それよりも政党交付金や不祥事が目立つ議員歳費の使い方に注目していくべきなのかもしれません。

 

参考記事:29日付 各紙朝刊 衆院選改革法案関連面