最高裁判所は「憲法の番人」や「人権の砦」と言われます。しかし、今回はその役目を果たしたとはいえません。
「最高裁判所が必要と認めれば裁判所以外の場所で法廷を開ける」とする裁判所法の規定に基づいて開かれる特別法廷。つまり、やむを得ない場合のみ裁判所以外の場所で裁判を開くことができると定めた規定です。しかし、ハンセン病患者であれば特別法廷の設置を認める「定期的な運用」をしていました。このことに対し、最高裁判所は「ハンセン病患者に対する偏見、差別を助長することにつながったこと、さらに、患者の人格と尊厳を傷つけるものであった」と謝罪しました。
今回の検証では憲法が保障する「裁判の公開原則」については開廷を知らせる貼り紙が療養所の正門に掲示されていたことを理由に、「法の下の平等」については「特別法廷を設置するかを審査した状況がはっきりせず、違憲と判断できない」として、いずれの点からも違憲性を否定しました。しかし、会見では、質問に答える形で「違憲の疑いがある」ことは認めました。かなり曖昧な会見であったと思います。
ハンセン病の元患者らでつくる「全国ハンセン病療養所入所者協議会」など3団体は、最高裁の報告書について「単に裁判所法の運用を誤ったにすぎないのであれば、ハンセン病というだけで患者を憲法の対象外においた司法の責任は全く不問にされたに等しく、到底受け入れられない」との声明を出しています。「憲法の番人」である最高裁が手続き面でのミスのみを言及し、憲法判断をしなかったのですから、ハンセン病元患者の方々に自ら加担した差別的扱いを本当に反省しているとは思えません。
患者の隔離を定めた「らい予防法」の廃止から20年が経ちました。政府は2001年、熊本地裁での国家賠償訴訟で敗れたのをきっかけに、今までの政策が誤っていたと認め、謝罪しました。その直後に国会も、全会一致で責任を認める決議をしています。一方で、司法はなかなか動きませんでした。今回の検証も2014年に元患者側からの指摘があってようやく始まったものです。政府と国会が謝罪してから15年、遅すぎる印象はぬぐえません。
三権分立の民主主義のなかで、本来なら「人権の砦」として、差別されている方を救済する役目を持っているのが最高裁です。それなのに検証をいち早く行わなかった結果として資料が散逸し、「違憲」と言えなくなってしまった事実は重く受け止めるべきです。
ハンセン病という病にかかっただけで隔離施設に入れられ、裁判ですら普通のやり方で開いてもらえない。このような苦しみを完全に理解することは私もできません。ですが、「人権」という人間ならば誰しもが持っている権利を、今までないがしろにしてきた事実を潔く認め、その回復に努めるのが最高裁として求められていたことだったはずです。
参考記事:
26日付 各紙朝刊 ハンセン病隔離法廷関連記事