本日7日から、福岡アジア美術館で「水俣・福岡展2023」が開催されています。海外でも知られる大規模な公害事件、水俣病。公式確認から67年が経過した現在でも、解決したとは言えません。今なお苦しむ被害者や、戻らない環境被害があるのだから。先月28日には、水俣病をめぐる訴訟の判決が出ました。悲惨な過去から目をそらさないために、同じ過ちを繰り返さないために、今を生きる私たちには水俣から学ばなければならないことが少なくありません。
展示は、大きく5つに分かれています。「水俣の美しい自然・豊かな風土」「水俣病とは何か」「水銀はなぜ止まらなかったのか」「被害者は何を求めたのか」「その後の水俣と水俣病事件」。さらに闘病や闘争の様子を記録する写真展示や、水俣病事件を描いた美術展示、患者が半年間で服用した薬のなどの実物展示もあります。
今回の展示で最も記憶に残ったものは、患者の遺影です。「水俣」シリーズで知られる記録映画作家・土本典昭夫妻が遺族を訪ねて収集した遺影など、500点を空間一面に展示しています。展示空間に入った瞬間、息苦しさを覚えました。幼い子供から高齢の方まで世代は様々で、被害地域も広がっています。水俣病の犠牲者たちに見つめられる。5歳ほどの小さな女の子まで被害を受けたのか、と辛い気持ちになってしまいます。死者、認定患者の人数を数字で見るよりも、被害の大きさをより実感します。それでも、展示されている遺影は、犠牲者全体のごくわずかなのです。
さらに、展覧会の魅力は、ほぼ毎日開催されるホールプログラムです。患者さんや研究者、作家など水俣に関わる人による講演や、記録映画の上映、ライブなどがあります。
筆者も展示ボランティアとして、4月から開催準備に参加してきました。水俣病に初めて触れたのは、小学校の社会の授業でした。けれど、克服された過去の公害病、と考えていた当時、本当の意味で水俣と出会ってはいなかったと思います。決して過去の惨事ではないのだから。そこに気づくことのできた「水俣・福岡展」で初めて、水俣に「出会えた」のです。
これまであらたにすでは、水俣に関する記事を2本書きました。犠牲者慰霊式に参列したことと百間排水口が撤去されようとしていることについてです。水俣病公式確認から半世紀後に生まれた立場として、自分なりに水俣のことを考えてきました。出会うきっかけを作ってくださった展覧会には、感謝しかありません。
開催にあたって、「水俣フォーラム」事務局長の服部直明さんに質問をさせていただきました。
――この展覧会で何を見て、何を感じてもらいたいですか。
「見た人なりに何か一つ持ち帰ってほしい。水俣に関するものは大量に残されている。姿でも言葉でも、何とは特定しないから、何かを」
水俣病は、公害や環境だけの問題ではなく、社会構造や人間生活に深く関わることです。山積する問題と共に生きていく私たちは、同じ過ちを繰り返さないために過去から学んでいく必要があります。「水俣・福岡展」へ、ぜひ足を運んでください。
水俣病関連記事:
・水俣病の今に触れる | あらたにす (allatanys.jp)
・百間排水口撤去? 「負の遺産」どこまで保存する | あらたにす (allatanys.jp)
参考資料:
・認定NPO法人 水俣フォーラム (minamata-f.com)
参考記事:
・7日付 読売新聞オンライン 水俣病患者ら500人分の遺影やメチル水銀の実物展示、苦難を追体験…福岡アジア美術館:地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
・5日付 朝日新聞世デジタル 「忘れ、繰り返す社会は悲しい」 水俣病から今、学ぶべきこと:朝日新聞デジタル (asahi.com)
・9月28日付 日経新聞 水俣病救済巡る訴訟、国側に賠償命じる 大阪地裁判決 – 日本経済新聞 (nikkei.com)