ネットフリックスの本気 実写版ONEPIECEをファンが語る

31日にようやく配信が開始されたネットフリックス制作実写版ONEPIECE(ワンピース)。皆さん御覧になったでしょうか。2016年から7年を費やしてようやく公開にこぎつけ、一話あたり1800万ドル(約26億円)もの予算がかけられているという本作。その背景をアニメ実写化の難しさやアニメ業界の仕組みを元に解説しつつ、原作ファン歴12年の筆者なりの評価をお伝えしようと思います。

 

■アニメ実写化の難しさ

「実写アニメに成功なし」というのは、漫画やアニメを好きな人であれば一度は耳にし、体感したことがあるのではないでしょうか。界隈では有名なドラゴンボールの実写化をはじめ、数々の失敗作が生まれてしまっているのが現状です。

その原因は、「原作とのずれ」に尽きます。一般的にアニメの題材は能力バトルものなど超常現象を伴う作品が多く、キャラの見た目も特徴的なので、そのままの世界観を表現することはまず不可能です。そのため、原作改編や有名俳優の起用、費用も抑えられるCGの多用などが起こり、違和感の原因となります。実写化の肝は、原作ファンの期待を裏切らないこと。そのためには、手間とコスト、そして制作サイドの作品愛がとりわけ重要になってくるのです。

その点からいえば、今回の実写版ワンピースは、期間や費用、制作体制に類を見ないほど力を入れており、作品のリスペクトと共に実写化成功への本気度が伺えます。その苦労は、キャンペーンサイトから読み取ることができます。原作者である尾田先生との多くの激論の末に、こうして全く新しい作品としての実写版ワンピースは作り上げられたのです。

着手から早7年。その間にかかった費用はなんと1エピソードあたり1800万ドル(約26億円)というから驚きです。これはネットフリックスシリーズ作品でも史上最大級の規模。全8話なので200億円以上と考えると、ハリウッド超大作映画に匹敵すると豪語しているのにも納得がいきます。

 

■アニメ業界の仕組み

では、なぜそこまでしてネットフリックスは本作に力を入れているのでしょうか。そこには、実写化を成功させるという熱意に加え、版権を巡るアニメ業界での競争の問題が考えられます。

現在国内産アニメのほとんどは、「製作委員会方式」によって生み出されています。製作委員会とは、アニメ制作に出資した企業の共同事業体のこと。多くの会社がお金を出し合ってアニメを制作し、その著作権を元にそれぞれの企業がグッズ販売等の2次展開(IPビジネス)によって投下した資金を回収する構造になっています。少額で出資でき、かつアニメ単体の収益に加え2次利用収入が見込めることで、リスクを低く抑えられるのが強みです。

一方、今回のネットフリックスは、制作費を全額負担するリスクを背負うことで権利を占有する「独占配信」が売りです。一見するとどちらも一長一短に見えますが、著作権を利用したビジネス展開を考えると、誰もが見られる地上波の方が知名度を上げやすく、有利だと考えられます。世界でも大ヒットを記録している『推しの子』も、独占配信であればここまでの知名度は得られなかったことでしょう。このように、版権で稼ぎたい出版社側は、ヒットが見込める人気作であるほど、より宣伝効果の見込める地上波をアニメ化の委託先として選ぶことになるのです。

この問題は、独占配信の性質上逃れられないため、根本的な解決は望めないでしょう。だからこそ、今ワンピースを実写化するのではないでしょうか。20年以上連載を続ける超ロングランヒット作品で、漫画の単行本出荷数ではギネス記録にもなっており、世界中にファンがいます。原作は当分尽きないため2作目以降も作りやすく、今作がヒットすれば看板シリーズにもなり得ます。

「製作委員会方式」では到底できないほどの思い切った規模で既存IPを実写化し、世界に向け配信するネットフリックス。『イカゲーム』に次ぐ新たな看板作品を生み出すべく、社運を賭けて臨んでいるのがこの実写版ワンピースなのではないでしょうか。

 

■筆者の感想(原作のネタバレを含みます)

あくまでも1ファンの意見でしかありませんが、キャストの演技、舞台、作中シーンの完成度、オリジナル要素のどれをとっても素晴らしく、大成功と言える出来だと思いました。実写化としてはこれ以上にない完成度だと言えるでしょう。主人公の海賊団「麦わらの一味」の完成度が特に高く、その中でも主人公ルフィを演じたイニャキ・ゴドイさんの演技は圧巻でした。原作者の尾田先生が「君以外考えられない」と評していたのも頷けます。

原作の再現でも頑張っていると感じました。よく表れているのが、一味のコックであるサンジとその恩人であるゼフ2人の回想シーン。敵同士でありながら同じ島に漂流してしまうのですが、原作ではサンジを救うためにゼフが自分の足を食べるという場面があります。このシーンはその残酷さからアニメ版では修正が加えられているのですが、本作ではそのままでした。世界中に配信される以上こういった表現は避けたいはずですが、原作で表現されている「海の残酷さ」をそのまま表現するために年齢制限を設けていることには特に好感を持ちました。

全八話に収めるためか、ストーリーの省略や変更、順番を入れ替えたシーンが多く見られたものの、物語の要所は全て押さえてありました。後半に比重を割いたためか前半は展開が早めなので、原作を読んだことのない方は改めて漫画も読んでいただけると、「ノジコの入れ墨が入っている理由」や「サンジがなぜ食べ残しを許さないのか」など、より理解が深まるのではないかと思います。ただ一点、ガープ中将やノジコなど、サブキャラの行動には少々違和感を抱いたところもあったので、個人的にはもう少し丁寧に描写し、10話くらいにした方がよりよかったと思いました。

 

■まとめ

エピソード一つにつき26億円もの大金が費やされているという、ここまで高クオリティの実写アニメは見たことがありませんし、今後もなかなか出てこないはずです。ワンピース好きにはもちろんのこと、まだ読んだことのない人にも一見の価値はあると思います。現時点で日本国内では大ヒットと言えるほどには盛り上がっていないので、今後の更なる飛躍に期待したいと思います。

今年中にアジア太平洋地域に約19億ドル(2800億円)を投じるとの予測も出るなど、ここ最近アジアのネットフリックス会員数は増加傾向にあります。本作の成功を機に投資意欲がさらに盛り上がり、2作目以降が作られることを願います。

 

参考記事:

米動画配信、格安視聴の終わり – 日本経済新聞 (nikkei.com)

ネトフリ、日韓印に照準 制作陣囲い込み – 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

参考資料:

ONE PIECE | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト

集英社:「ワンピース」実写化決め手は制作費「史上最高」 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

・週刊東洋経済『アニメ 熱狂のカラクリ』 2023年5月27日号

・中山淳雄著『エンタメビジネス全史』 2023年3月27日発行

・大学生の「実写化」に対する意識調査10_nishiwaki.pdf (bunkyo.ac.jp)

ワンピース実写版の制作予算は1エピソードあたり約26億円? | Hypebeast.JP