太平洋戦争が残した爪痕とは?

「PTSD」という言葉、一度は耳にしたことがあると思います。しかし、具体的に説明できる人は少ないのではないでしょうか。

「男子生徒は、(中略)学校内でいじめを受けたことで母親に対して頭痛や腹痛を訴えるようになった。生徒が部活から泣きながら帰ってきたり、母親に『部活で自分の居場所がない』と打ち明けたりしていたといい、翌22年7月から不登校になった。」(朝日新聞,2023)

上の事例もPTSDの一種です。

PTSDとは、心的外傷後ストレス障害の略語で大きく4つに分けられます。

1.過覚醒(過度の緊張や警戒)

2.再体験(当時の記憶や感覚がよみがえる)

3.回避(トラウマ体験を思い出させるものを避ける)

4.否定的認知や気分(自分や他者に対して否定的になる)

この言葉が生まれたきっかけは、ベトナム戦争だったそうです。帰還兵の間で、悪夢などの後遺症が広がり米国で社会問題になりました。そんな帰還兵の話が基になった本をご紹介します。

ベトナム帰還兵のアレン・ネルソンさんが書いた『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(講談社文庫)です。

この本には、海兵隊に入隊してから戦争を経験し、帰還兵になってPTSDに陥るまでの彼の人生そのものが詰め込まれています。

精神的ストレスで家族に暴力をふるってしまったり、親族から「人殺し」といった扱いを受けたりと強烈な体験が多数書かれています。

その中でも、最も印象に残っているエピソードがあります。それは、小学校の出張授業で児童たちに戦争の悲惨さを話していた時、ある子どもに「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」と聞かれたことです。
ネルソンさんは、その時戦争での体験がフラッシュバックして号泣したそうです。

戦争によるPTSD発症は、ベトナム戦争だけではありません。他の戦争、もちろん第二次世界大戦の帰還兵の中にも苦しんでいる人はいました。その苦しみは当事者だけでなく、家族にも伝染します。

父がPTSDの帰還兵であった黒井秋夫さんは、2018年に「PTSDの復員日本兵と暮らした家族が語り合う会」を立ち上げました。虐待や暴力を振るわれた人もいたそうです。

戦争は、1945年8月15日に完全に終わったわけではありません。戦争の爪痕は、78年経った現在に至るまで根深く残っています。

参考記事
8月15日付 朝日新聞 「抜け殻だった父 心の傷いま知った」「復員後、暴力振るった父…『私も同じことしてる』」

7月15日付 朝日新聞 「部活でいじめ、不登校に 調査委報告書、学校の対応問題視 石岡の中学生 /茨城県」