富士山に人出戻る 挑戦には事前の準備を 

「富士山麓オウム鳴く(=2.2360679)」

中学生3年生のときに覚えた√5の近似値の語呂合わせです。

 

実際に富士登山に挑戦してみて、麓でオウムこそ見なかったもののその雄大さを実感し、富士山がさまざまな創作におけるモチーフとなっている理由を垣間見た気がしました。日本最古の歌集である「万葉集」をはじめとする詩歌に取り入れられたり、葛飾北斎、歌川広重によって描かれたりと古来より芸術作品の題材となっています。また2013年には「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」として、ユネスコ世界遺産委員会から世界文化遺産に登録されました。

 

今シーズンの富士山への登山者数は、過去10年で1、2を争うほどに増加しています。途中の登山道では、人が詰まって行列になっている箇所がいくつか見られました。筆者の周囲でも英語や中国語、韓国語など様々な言語が飛び交い、外国人の間でも人気も高いことを実感しました。

2023年夏期の富士山登山者数の中間発表(暫定値)について (お知らせ)より引用

今後も多くの来訪者が見込まれる一方で、「弾丸登山」や「日帰り軽装登山」の危険性が指摘されています。

「弾丸登山」とは、五合目を夜間に出発し、山小屋に泊まらず夜通しで一気に富士山頂を目指す0泊2日の強行軍のことです。また、「軽装登山」は必要な装備を持たないままの登山を指します。富士山は標高3776mを誇る日本一の高山であり、登山口の5合目と山頂の気温差は昼間で9度、夜間で13度以上になります。高山病や低体温症、熱中症などのリスクが伴うことを理解して十分な準備をしたうえで挑む必要があります。

 

山頂から御来光を仰ぐためには、朝5時前後(2023年8月時点)の日の出に間に合うように登らなくてはなりません。8合目などの山小屋に宿泊し、十分な休憩をとりながら進むことが呼びかけられています。夜通し歩くと高山病や事故を引き起こしかねません。またすべて予約制の山小屋ですが、新型コロナウイルスの影響により定員が7割程度に減らされていることがあるため、希望者全員の受入れが困難な状況が続きます。深夜の混雑するタイミングを避け、無理のない行程を組むことが肝要です。ちなみに山梨県側から登る吉田口ルートでは山頂でなくても御来光を見ることができます。

筆者は大学入学時に「富士山に登りたい!」と思い立ってハイキング部に入り、先輩や後輩、友人に装備品や地図の読み方、登山時に持ち歩く飲食物、歩き方や呼吸の仕方など、登山の基礎から教えてもらいました。今回も、途中で荷物を持ってもらったり声がけしてもらったりと、周囲の気遣いと優しさに助けられながらなんとか山頂に立つことができました。

富士山は信仰の対象と芸術の源泉であると同時に、活火山であることにも留意しなければいけません。突発的な噴火から身を守るための持ち物や知識も必要になります。

筆者が大学生のうちに達成したい目標の一つだった富士登山。みなさんも富士山に訪れたり、登ってみたいと思ったりしたことはあるでしょうか。事前の準備を十分にしたうえで、美しい富士山を肌で感じつつ安全に楽しめることを願います。

 

【参考記事】

7月22日付 日本経済新聞朝刊(静岡全県)27頁「「県地域防災計画」を修正 市町支援へ機動班、南海トラフ犠牲9割減を/静岡県」

 

【参考資料】

世界遺産について-富士山世界遺産センター (fujisan-whc.jp)

2023年 富士登山されるすべての方へ (fujisan-climb.jp)

2023年夏期の富士山登山者数の中間発表(暫定値)について (お知らせ) | 関東地方環境事務所 | 環境省 (env.go.jp)

富士山 “弾丸登山”に危機感 今夏の登山者急増見込みで | NHK 2023年6月30日