7月21日、読売新聞が独自に入手した録音データで、ある問題が発覚しました。
2019年に起きた河井夫妻大規模買収事件の捜査のなかで、東京地検特捜部の検事が任意で取り調べた広島市議(当時)に対して不起訴にすると示唆し、現金の目的が買収だと認めさせていたのです。元法相から2019年の参院選に近い時期に現金を受け取り、それが買収資金だったという構図です。
今月に入り在宅起訴とされた広島県議や広島市議らの公判が広島地裁で開かれ、筆者は注目していました。それだけに驚くべき事実でした。7月12日に開かれた公判で、広島県議の三宅正明被告は「検事から『克之氏を有罪にしたいので協力して』と言われた」、「検事に供述調書と違うことを話したら、偽証罪になると言われた」と主張していました。複数の取り調べを受けた者による証言と録音データにより今回の問題が明るみに出ました。
ただ、なぜこの問題が明るみになるのに時間がかかったのでしょうか。私は問題点が2つあると考えます。
1つ目は、政治家の間での現金の受領が当たり前になっているという点です。12日の公判で三宅被告は、過去に中川秀直元衆院議員や新谷正義衆院議員、宮沢洋一参院議員からも「陣中見舞い」などを受け取っていたと述べ、定期的に国会議員と金銭の授受があったことを明らかにしました。
また、19年の参院選で同じ自民党で河井案里氏と戦った溝手顕正氏の周辺でも金銭のやりとりがあったことが明らかになっています。元県議会議長の奥原信也氏によると、溝手氏から参院選の前に50万円が振り込まれたそうです。奥原氏は政治資金収支報告書に記載し、領収書を発行しているため政治資金規正法の問題はありません。ただ、選挙前の金銭の授受であったため公選法上の買収罪にあたる可能性もありました。自民党内では金銭のやり取りが慣行化していたことが分かります。
2つ目は、東京地検特捜部の検事による取り調べの情報が公開されていない点です。そのため、取り調べが録音され公開されていなければ、特捜検事が供述誘導をしていたことは明るみにされなかったでしょう。知る権利が極めて重要な基本的人権である以上、東京地検特捜部には取り調べの情報公開と一連の捜査を検証する責務があると私は考えます。
河井夫妻大規模買収事件に関して、今もなおたくさんの疑問点が残っています。党本部からの助成金は何に使われたのか、買収に使った金銭の出どころはどこなのか、などなど。これからも複数の広島県議や広島市議などの公判が予定されています。今後もこの事件に注目していきます。
参考文献
・読売新聞朝刊、「特捜検事、供述を誘導か…河井元法相の大規模買収事件で市議に不起訴を示唆」、2023年7月21日
・日本経済新聞朝刊、「特捜検事が供述誘導か 河井元法相事件」、2023年7月22日
・朝日新聞デジタル、「供述誘導と主張の元広島市議、起訴内容を否認 元法相買収事件」、7月27日、大野晴香、
https://digital.asahi.com/articles/ASR7W420YR7VPTIL01D.html
・中国新聞「決別 金権政治」取材班、ばらまき、集英社、2021年12月20日、p127-136
・中国新聞朝刊、「河井事件 被買収罪の2被告公判要旨」、2023年7月13日
・中国新聞朝刊、「河井元法相公判の証言『虚偽』」、2023年7月13日