パナマ文書に各国首脳の名前

 有名な運河のある、カリブ海の南東部に位置する小さな国。ここ数日でにわかに注目を集めることになりました。パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から内部資料が流出し、波紋が広がっています。1970年~最近までの顧客との電子メール、契約書類、内部データなど、実に1150万点に及ぶ膨大なデータです。各紙で「ウィキリークスを上回る過去最大の流出文書」と報じられました。

 法律事務所のデータが注目される理由は、パナマという国の特別な税制にあります。日本貿易振興機構(JETORO)によりますと、「パナマの税制は領土主義(Territoriality)を基本としており、収入を生む活動がパナマ国内で行われた場合にのみ課税の対象となる」。つまり、会社の本拠地をパナマにしておけば、税を課されることなく取引ができてしまうのです。租税回避地、という意味で「タックスヘイブン」と呼ばれています。富裕層や金融機関・企業など、税負担をどうしても減らしたい、もしくは秘密を守りたい人々が利用する手段でした。

 一方で、強固な匿名性が問題とされてきました。たとえタックスヘイブンを利用しても、払わなくてはいけない税を払っていなければ、脱税になってしまいます。しかし、誰の、どこから来たお金なのかは外部にはわかりません。海外の税務当局もお手上げです。さらに、もしテロリストへの資金援助など非合法的な利用があっても、外部から監視するのは難しくなります。国際的な規制が議論されてきました。
 
 今回データの流出した「モサック・フォンセカ」は、このタックスヘイブンを請け負う最大手の法律事務所でした。立ち上げた会社はなんと24万社にも及びます。驚くべきことに、データの中には、世界各国の指導者・富裕層が名を連ねています。スポーツ選手や芸能人、政治家まで。アイスランドの首相は夫婦で租税回避をしていたことが明らかとなり、早くも辞職に追い込まれました。

 「どの口が言うのか」。そう反論されてしまうでしょう。汚職の追放や税金逃れ対策に取り組んできた政治家たちにとっては、致命的な痛手です。税の大切な役割の一つとして、格差を是正することがあります。所得税には累進制が導入されていて、所得が多ければ多いほど多く徴税され、逆に所得の少ない人は課税も少なく、援助を受けられる。多くの国ではそうなっています。しかしながら、本来であれば多くを負担しなくてはならないはずの富裕層が、こぞって負担の回避に努めている。そんな状況が浮かび上がってきました。
 
 おりしも、日本では消費税率をいつ上げるかについて議論の真っ最中。名簿に書かれた人の発言力は、著しく低くなってしまうでしょう。1150万点のデータの中に、日本政府の関係者がいないことを切に願います。

<参考記事>
朝日新聞朝刊11面『「パナマ文書」を調査』
読売新聞朝刊3面『租税回避 米欧が調査』
日本経済新聞朝刊3面『「租税逃れ」 世界揺らす』

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