長期化する袴田事件の審理 誰のための司法制度?

大学3年生の夏を迎え、友人との話題も就職や今後の生き方に関することが多くなってきたと感じます。インターンシップに申し込んだり、自分自身を見つめなおしたりする中で、中学校時代の職業体験を思い出しました。

中学2年生の夏の職業体験では保育園やスーパーマーケットなど様々な受け入れ先から選択できたのですが、今しかできないことをしてみたいと考えた私は、これまで行ったことがない場所であり今後行くこともないだろうという理由で「検察庁」を選びました。

初めて検察官の方と会い、検察庁や裁判所を見学し模擬裁判に参加するなど、そこで見聞きし経験する一つひとつが新鮮で、すべてを吸収しようと必死だったことを覚えています。

 

いわゆる「袴田事件」(以下、本件)の再審公判で検察が有罪立証すると表明したことで、検察の動向に注目が集まっています。

1966年に静岡県で一家4人が殺害された事件で、80年には袴田巌さんの死刑が確定しました。43年後の今年3月、裁判のやり直しが決まりましたが、検察側が有罪立証を表明したことで、審理が長期化する見通しとなりました。

事件から半世紀以上が経過しているうえ、袴田さんは87歳と高齢で健康上の心配もあり、迅速な審理を求める声があります[i]。

また、1回目の再審の申し立てから2008年に再審を認めない判断が確定するまで27年、2回目の再審請求から2023年に再審が認められるまで15年を経るなど、再審請求の審理に時間がかかっていることも問題点として挙げられます。

事件と再審請求の経緯:筆者作成

 

ここで問題となっている再審とは、どのような制度でしょうか?

 

刑事訴訟法では、「有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために」再審請求をすることができると規定します(435条)。憲法39条で「何人も…既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない」と定めているため、再審制度の目的は有罪確定判決の誤りを正すことだと理解できます。

435条は再審請求の理由として7つの事由を挙げていますが、本件では「無罪…を言い渡べき明らかな証拠をあらたに発見したとき」という435条6号に基づいて再審が認められました。

再審の手続きは①請求に基づいて再審理由の有無を審理する手続きと②再審開始決定の後に行われる事件自体についての公判審理の2つの段階がありますが、本件では「無罪…を言い渡べき明らかな証拠」が認められたため①が終了し、②に移ることが決まっています。検察は②の手続きで袴田さんの有罪を立証すると表明しています。

再審請求では審理の長期化が問題視されていますが、証拠の開示などに関する手続きの進め方が具体的に定められていないことが要因に挙げられます。

本件では死刑判決の決め手となった「5点の衣類」の写真などが2回目の再審請求の審理になって検察から新たに開示されるなど、捜査機関がどのような証拠を持っているか分からない中で弁護することに難しさが伴いました。日本弁護士連合会は法律を改正し再審請求での証拠開示を制度化すべきと主張しており、刑事裁判手続きのあり方について議論が求められています。

死刑が確定した事件で再審が行われるのは本件が5件目ですが、過去の4件はすべて無罪が確定しています。再審公判で無罪の言渡しをしたときは官報と新聞に掲載してその判決を公示しなければならないと定められており(453条)、報道だけでなく国民への周知という面でも新聞は重要な役割を担っています。

 

本件の再審公判で検察が有罪立証するとした報道では、袴田さんが死刑囚として過ごした時間の長さに着目したものが多いと感じました。死刑囚としての日々の苦痛は、どんなに想像力を働かせても分かりえないものだと思います。一方で犯人が特定されず苦しんでいる、被害者のご家族や友人がいることも忘れてはいけないはずです。

 

私が中学2年次に出会った検察官の方々は、未熟な筆者たちに真摯に向き合いどんな質問にもまっすぐ答えてくれました。当時頂いた検察庁のパンフレットは今でも手元にあり、表紙には「真実を見つめ、社会正義の実現のために犯罪に立ち向かいます!」の文字が書かれています。

無実の人を罰することも、真犯人を逃して処罰を免れさせることもあってはならないはずです。事案の真相解明という本来の職責に立ち返り、適正で公平な検察活動が行われるとともに、実情に即した司法制度の実現を望みます。

検察庁パンフレット:筆者撮影

[i] 2023年7月10日「袴田巌さん再審 検察は有罪求める立証を行う方針 審理長期化へ」元裁判官 半田靖史弁護士

 

【参考記事】

11日付 日本経済新聞朝刊2面「袴田事件、検察が有罪立証 方針を伝達 審理さらに長期化 再審制度の不備浮かぶ」関連記事34面

11日付 読売新聞朝刊1面「袴田さん有罪立証 表明 静岡地検 再審 審理長期化へ」関連記事3・35面

11日付 朝日新聞朝刊1面「検察、捏造「証拠ない」 袴田さん再審、有罪立証を表明 長期化に弁護団反発」関連記事29面

【参考資料】

鈴木淳也編『法学教室2月号「時の問題 再審制度-アメリカ法との比較」』、2019年2月1日、有斐閣、p.55-63

宇藤崇・松田岳士他著、「刑事訴訟法[第2版]」、2018年2月25日、有斐閣、p.539-546

2023年3月13日 NHK 静岡WEB特集【詳報】袴田事件 再審開始決定!東京高裁

2023年3月13日 NHK解説委員室「袴田事件証拠は何のために」

2023年3月22日 NHK「袴田巌さん 再審決定まで40年余 なぜここまで時間がかかるのか」

最終閲覧日:2023年7月11日 日本弁護士連合会「袴田事件」