「核思う機会」生み出せ、G7

 

「原爆により、多くの人が犠牲となった。でも、原爆が落とされなければ戦争は長引き、もっと多くの人が亡くなった」。高校2年のときです。留学先のアメリカで通っていた高校で、歴史の授業中に友人が言いました。当時の私は、「原爆=悪」という認識しかなかったため、その考えの落差に戸惑いました。

広島で開かれる主要7ヶ国(G7)外相会合に合わせ、核保有国の米英仏を含むG7外相が11日に広島市の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に献花することが決まりました。G7に名を連ねる核保有国の現役外相が同公園を訪れるのは初めてです。岸田外相は2日、「世界の指導者に被爆地を訪問してもらい、被爆の実相に触れてもらうことは、核兵器のない世界を目指そうという国際的な機運を盛り上げるうえで大変重要なことだ」と述べました。広島の被爆者や関係者も、「核兵器の恐ろしさがきっと伝わる」と、核兵器廃絶への動きが前進することに期待しています。

注目すべきは、米国の動きです。ケリー国務長官に続き、オバマ大統領が5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)時に現職大統領として初めて広島入りするかが、次の焦点となります。「核なき世界」を提唱しノーベル平和賞を受賞したオバマ氏。広島訪問に前向きな姿勢を示してきました。しかし、問題は米国内の世論です。冒頭の友人のコメントのように、米国では原爆投下を「戦争終結を早めた」と正当化する回答が60%近くあります。オバマ氏が広島行きを決めた場合、米退役軍人を中心に反発する可能性が高く、選挙の季節に集票力を持つ退役軍人を敵に回しかねないわけです。このためオバマ氏側近の間でも意見が割れています。「核なき世界」を目指すオバマ氏。世論の声。ちらつく「集票」の影響力。今回の広島訪問の論議から、原爆に対する米国の価値観が垣間見えます。

核廃絶の動きが停滞するなか、G7外相が記念公園訪問を決めたことは、非常に大きな意味を持ちます。アメリカのように、どの立場の人の意見を重視すべきかという争点も生まれるでしょう。

大切なことは「公園を訪れる」ことのみではなく、被爆者らの体験なども聞いてそれを核兵器について「考える」きっかけにつなげることです。G7外相にとどまらず、その国民、それ以外の国の人々にも核について考える機会になることを願います。

 

参考記事:

3日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)1面(総合)「G7外相、広島平和公園へ」,30面(社会)『「話を直接聞いて」被爆者ら、G7外相広島訪問に』

同日付 読売新聞朝刊(大阪14版)1面(総合)「G7外相 広島平和公園へ 11日訪問」,28面(社会)『「核兵器廃絶へ前進」広島の被爆者ら期待』

同日付 日本経済新聞朝刊(大阪14版)1面(総合)「広島・原爆資料館訪問へ G7外相、米国務長官ら初」,2面(総合)「オバマ氏訪問焦点に 広島 米国内の世論見極め」,3面「きょうのことば」,31面(社会)『広島 被爆者ら「大歓迎」 G7外相資料館へ「核の怖さ感じて」』