本との出会いが希薄に 当たり前ではない学校図書館と街の本屋さん

かりた日:5/14、ほんのなまえ:ペットフードのひみつ、かえす日:5/21

 

先日部屋の掃除をしていたら、小学校2年生の時に小学校の図書室で使っていた読書カードを見つけました。「パセリ伝説」や「○○のひみつシリーズ」のようにタイトルを見て懐かしさを感じるものもあれば、今となっては内容を全く覚えていないものもありましたが、日を空けずに何冊も借りている様子から、本に夢中になっていたことが伺えます。なかでも人との関わり方を考えるきっかけを与えてくれた「光とともに」は、何度も読み返していた思い入れのある本だったため、小学2年生で既に読み始めていたことに、我がことながら驚きました。十数年前に読んだ本の一冊一冊が現在の自分を形作っているかもしれないだけに、図書館での出会いはかけがえのないものだったのだと感じます。

筆者が小学校2年生のときに使用していた読書カード(筆者撮影)

 

皆さんにも、小さい頃の思い出の本や現在大切にしている本はありますか?

 

本と出会い、本に親しむきっかけを与えてくれる学校図書館の整備が遅れています。公立小中学校の学校図書館の充実のために国が図書購入費として交付した220億円のうち、2021年度に全国の自治体で実際に本を買うために使われたのは6割弱の126億円にとどまりました。図書購入費とされた地方交付税交付金でも、それをどう使うかは各自治体の判断に任されています。このため、社会保障や教育現場の情報通信環境の整備が優先され学校図書館への配分は後回しになっているとみられます。なお交付税のうち、目的通り図書購入に使われた割合は、2014年度の74%から7年連続で減少しています。

国は学校図書館を計画的に整備するために、1993年度から「学校図書館整備5か年計画」を策定してきました。2017年~21年度の第5次計画では、小中学校における図書購入や学校司書の配置拡充に充てる費用として5年間で2350億円の財政を確保し、このうち図書購入費は1100億円を占めます。また各学校の規模に応じて、蔵書数の目安となる「学校図書館図書標準」を設けていますが、達成している学校の割合は小学校71%、中学校61%(2019年度末)にとどまります。

 

本に直接触れる場が少なくなっているのは小中学生に限りません。全国1741市区町村の26.2%にあたる456の自治体は、地域に書店が1店もありません。1店のみの自治体を含めれば790と4割以上に上ります。日本出版インフラセンター(東京)のデータによると、そうした書店が1店もない「無書店自治体」の割合は沖縄県で56.1%、長野県で51.9%、奈良県で51.3%と半数以上にのぼります。また北海道は無書店か書店が1店しかない自治体が70.9%を占めました。背景には紙媒体の本や雑誌の不振とともに、インターネット販売店の台頭により街の本屋が廃業に追い込まれていることがあります。

こうした現状を踏まえて、約150人の自民党議員で構成される「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」は書店を保護するための中間報告をまとめました。報告では、返品や品切れを削減する流通改善や、国の補助で万引き防止目的のICタグを付与して本を流通させるモデル事業が提案されました。またインターネット書店の送料無料化など実質的な値引きへの制限や、図書館が同じ本を過剰購入することの見直しや新刊の貸与開始時期に関するルールの創設を求めています。

 

気になるのは、インターネット書店と図書館への制限です。無書店自治体が全国で26.2%を占める以上、本にアクセスするハードルを上げてしまっては本離れに繋がらないでしょうか。また図書館が人気の本を大量購入することで書店の売り上げが減りかねないことは理解できますが、利用者が小中高生のみを想定している学校図書館では、自分で本を買いにくい子供たちの事情に配慮し、新刊の貸し出し開始の時期などに関する基準は緩やかにすべきだと考えます。小さいころから本に親しみ読書習慣がある大人になってもらうことは、将来の「街の本屋のお客さん」を生み出すことにもつながるのではないでしょうか。

 

筆者が通っていた小学校には校内の図書室に加え、当時通っていた児童館にも図書室が併設されていました。また地域の方から、「読みたい本を買ってください」と寄付をいただいており、恵まれた環境にいたことを再確認しています。大学生となった今では、好きな作家のサイン本を探しに書店を回ったり、装丁の美しさで購入を決めるいわゆるジャケ買いをしたりと楽しみ方は多岐に渡っています。

読書そのものや何を読むかは、外から強制されるべきではありません。しかし本を読みたい人や読む可能性を秘めている人が書籍を手に取りやすい環境が保たれることを望みます。

 

【参考記事】

2023年6月6日付 読売新聞朝刊〔東京14版〕1面「学校図書費 購入57% 自治体交付金 社会保障など優先か」関連記事10面

2023年3月31日 朝日新聞デジタル「本屋ない市町村、全国で26% 業界はネット書店規制を要望、懸念も」

2022年12月9日 読売新聞デジタル「沖縄・長野・奈良、書店内自治体5割以上…本屋さん議連が改善提言へ」

【参考資料】

文部科学省「学校図書館図書整備等5か年計画について(地方財政措置)」