日本ではかつて多くの寝台列車が運行していました。しかし、夜行バスや飛行機の発達に押され、現在定期運行している寝台列車は、サンライズ出雲・瀬戸のみとなっています。東京と九州を結んでいたはやぶさ、富士も2009年3月13日に廃止されました。この列車は車体が青く塗装されていることから「ブルートレイン」の愛称で親しまれています。熊本県多良木町にはこのブルートレインをリノベーションした簡易宿泊施設があります。筆者は多良木を訪れ、ブルートレインに宿泊しました。前編では2日間熊本県内を移動して感じたことをもとに、地域の鉄道について考えていきます。
チェックイン当日の朝、鹿児島中央駅にいました。本当は列車を乗り継いで多良木駅まで向かいたいのですが、20年7月に熊本県を襲った豪雨によって肥薩線全線とくま川鉄道の一部区間が不通となっています。そのため、まずは高速バスで人吉インターに向かうことにしました。くま川鉄道の不通区間である人吉駅~肥後西村駅間は月曜日から土曜日の間は代替バスが運行しています。停留所の場所を教えてくれた住民の方によると、バスの利用者は主に学生とのことでした。実際に利用した便も筆者以外は学生ばかりで、4列シートのリムジンバスの半数を埋めていました。肥後西村駅でバスから鉄道に乗り換え、無事に多良木駅に到着しました。
2年前の記録的な集中豪雨によって、大きな被害を受けた肥薩線。22年12月に開催された検討会議では鉄道復旧に要する費用は235億円との試算が示され、JR九州は復旧には慎重な姿勢を示しています。主な利用者が学生のため、登下校の時間以外は乗客が見込めないためです。実際に筆者が乗車したときも、先ほどの代替バスと同じく車内は学生ばかりでした。このような地域では社会人は自家用車で移動し、鉄道を利用する交通環境にはなりません。沿線の人口減少も採算が悪化する原因の一つです。
一方で県はJR肥薩線を軸とした復興・地域振興ビジョンを打ち出し、人口減少の中でも収入を確保できる案を示しています。具体策としては、肥薩おれんじ鉄道、くま川鉄道やMaaSと連携した取り組み、人気者のくまモンとのコラボなどがあり、観光客をターゲットにしています。また、県は、熊本市中心部と阿蘇くまもと空港をつなぐ空港アクセス鉄道の整備を検討しています。4月5日付の朝日新聞朝刊によると、早ければ34年度末の運行開始を見込んでいますが、課題が山積している模様です。整備費410億円の財源確保のめどが立っておらず、鉄道の詳細なルートもまだ決まっていません。
チェックアウトの日は多良木駅から熊本空港まで向かいました。この日は日曜日だったため、くま川鉄道の代替バスが運休しており、肥後西村駅から人吉駅まで1時間半を徒歩移動し、人吉から熊本空港までもバスを2回乗り継ぐ必要がありました。多良木駅から空港までのアクセスは良いものではありません。県内の他の地域を訪れた人も同じ苦労を強いられたかもしれません。確かに、筆者のような観光客にとって空港アクセス線は魅力的です。しかし、県内在住者は自家用車で空港まで移動するでしょう。開通したとしても利用するでしょうか。そのうえ整備費の財源確保のめどはたっていません。 このままでは地方ローカル線の再建はさらに先送りされていくことでしょう。県外からの利用者にターゲットを絞った計画を立てても、それが地域住民にメリットをもたらすのでしょうか。
参考記事
4月5日付 朝日新聞朝刊 急転換、進む空港アクセス 地域支える鉄道整備 統一地方選