「核兵器のない世界」へ 着実な一歩を

「使用停止」の紙が貼られた、東京駅のコインロッカー。友人と一緒にライブに行くために荷物を預けようとしましたが、目に入るのは「使用停止」の文字ばかりでした。

今日5月19日から始まった主要7か国首脳会議(G7広島サミット)の警戒警備を強化する一環として、JR東日本が主要駅でコインロッカーの使用を止めたためです。ロッカーは数日前から順次使えなくなっており、テロ対策の厳重さが伺えました。

 

今回のG7サミットはロシアによるウクライナ侵略を背景として、「法の支配に基づく国際秩序の堅持」と「グローバル・サウスへの関与の強化」という視点から国際的な課題が検討されます。世界経済や気候変動、エネルギー問題を始めとする地球規模の問題が取り上げられる予定です。

日本が議長国を務めるのは今回が7回目。唯一の戦争被爆国として、核なき世界の実現に向けて議論をリードしなければなりません。一方でロシアがウクライナ侵略で核兵器を使用すると威嚇し、今年2月には「新戦略核兵器削減条約(新START)」の履行停止を宣言するなど、核兵器をめぐる強い危機感が国際社会に影を落としています。それだけに核軍縮・不拡散分野で一定の成果を出すことが期待されます。

 

岸田首相は2022年の第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議で、『「厳しい安全保障環境」という「現実」を「核兵器のない世界」という「理想」に結び付けるため、現実的かつ実践的な取り組みを進めていく』とのメッセージを発信しました。

その一つとして、(1)核兵器不使用の継続の重要性の共有、(2)透明性の向上、(3)核兵器数の減少傾向の維持、(4)核兵器の不拡散及び原子力の平和的利用、(5)各国指導者等による被爆地訪問の促進の5つを基礎とする「ヒロシマ・アクション・プラン」に取り組むとしています。安全保障においては各国の軍備が他国に与える脅威を考慮し、軍備情報を伝えあうことで他国との信頼関係を深めるとともに、双方の軍備を縮小していくことで互いの不信を抑えることが大切でしょう。

そもそもNPTは、核を持てる国を1967年までに核保有を宣言した米ソ英仏中の5か国に限定し、それ以外の加盟国は保有・製造・取得しない義務を負うというものです。核兵器を持たない国にとっては不公平な内容とも言えますが、米ソは同盟関係にある非核兵器国に対する核攻撃に対して反撃を約束する、いわゆる「核の傘」を提供するなどの代償措置が取られたため国際的な支持が得られました。

 

ウクライナは1991年の独立後、米英露の覚書に基づいて核放棄の道を選び、NPTに加入しました。この選択が抑止力を低下させ、ロシアの侵略を招いたとの見方もあります。また北朝鮮はウクライナの苦境を目の当たりにし、核に固執する姿勢を強めたとする考えも存在します。

絶えず変化し複雑化する安全保障環境の中で、少なくとも核兵器の不使用が継続されることが必要です。

日本はアメリカの核の傘のもとにいるため、核兵器の廃絶を目指す核兵器禁止条約には署名していません。その代わり核兵器保有国、禁止条約支持国が混在する国際社会において橋渡し役を果たすとしています。複雑化する安全保障環境の中で、その理念をどう生かし、国際世論をいかに舵取りしていくか。私たち国民一人ひとりが熟慮を求められる課題ではないでしょうか。

 

世界の核兵器保有数(2022年)12,705発のうち、G7メンバーで核保有国である英米仏の保有数の合計は5,943発です。この数は東京駅にあるコインロッカー数5,842個とほぼ同じだと分かり(筆者調べ)、核兵器の多さに驚きを隠せませんでした。今年の8月で終戦から78年が経過しますが、核の悲惨さを忘れることなく自分事として考えることが必要でしょう。被爆地に世界のリーダーが集う意義は大きいものです。G7各国首脳の原爆資料館の視察や慰霊碑への献花にとどまらず、核兵器廃絶に向けた長期的な視点からの宣言を望みます。

 

【参考記事】

19日付 朝日新聞(東京13版)3面『ウクライナ・中国 連携は 「核なき世界」へ成果なるか』

16日付 読売新聞(東京14版)1面「G7広島サミットの焦点[中] 核軍縮の道 阻む現実」

15日付 日本経済新聞1面「あすへの話題 広島でサミットを開く意味」

13日付 日本経済新聞33面『G7「核なき世界」の行方 現実踏まえ廃絶の理想へ』

【参考資料】

佐々木卓編著、「戦後アメリカ外交史〔第3版〕A History of American Foreign Relations since World War Ⅱ, 3rd ed.」、有斐閣アルマ、2017年、p.318,319

中谷和弘他著、「国際法〈第4版〉」、有斐閣アルマ、2021年

中西寛他著、「国際政治学」、有斐閣、2021年

ニュースリリース|企業サイト:JR東日本 (jreast.co.jp)

G7広島サミット開催に伴うゴミ箱及びコインロッカーの使用停止について (jreast.co.jp)

【公式】G7広島サミット2023 (g7hiroshima.go.jp)

外交青書2023 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100488910.pdf

核軍縮等に関する「ひろしまレポート2023年版」の発表国際平和拠点ひろしま〜核兵器のない世界平和に向けて〜 (hiroshimaforpeace.com)

外交青書 2018 | 4 軍縮・不拡散・原子力の平和的利用 | 外務省 (mofa.go.jp)

【詳しく】核兵器禁止条約って?ロシアの軍事侵攻の影響は? | NHK

東京駅のコインロッカー https://www.gransta.jp/news/info/coinlocker/