公共交通機関のなかでも鉄道は生活する上でなくてはならない住民の「足」です。しかし、惜しまれつつも廃線に追い込まれて姿を消す地域が少なくありません。3月31日にもJR北海道留萌本線の石狩沼田―留萌間の運行が終了したばかりです。衰退が目立つ地方交通を存続させる手段として、いま自動運転が注目を集めています。
国土交通省によると自動運転車の定義はレベル1からレベル5まで定められています。レベル1は運転支援、2は高度な運転支援。ここまでは運転者の負担を軽くする段階といえます。それに対して、3では場所、天候、速度などの条件が整った環境での自動運転、4は特定の条件下における完全自動運転、5では完全自動運転となっています。
4月2日付の日経新聞朝刊では自動運転の取り組みが報じられていました。国内初のレベル4の認可を受けた福井県永平寺町で実施された実証実験です。ゴルフカート型の車両が鉄道の廃線跡を走行し、2022年4月から12月に約600人を運びました。その間、事故を起こさなかったそうです。
自動運転技術の普及は運転士不足の解消につながると思いますが、コスト面の懸念があります。永平寺町の例では運行は第三セクターが担当し、車両の導入費用や維持費は国が負担しています。交通サービスの維持には安定した収入が不可欠で、国や自治体に頼らない自立した運営体制が求められます。しかし、都市部の複雑な道路を自動運転で走行するリスクは大きく、自動運転の技術を社会に組み込もうとすれば、当面は過疎化が進んだ地域が選ばれることが多くなるはずです。それだけに効率的な運営体制を確立しなければ経営が破綻する危険性も否めません。
名古屋市のガイドウェイバス「ゆとりーとライン」も自動運転化を計画しています。こちらは高架の専用路線を走らせるため、都市部でも自動走行が実現しやすいと思われます。路線建設の初期費用が通常のバス路線より高くつくのが難点ですが、高架でなくともバス専用レーンを走るBRT(バス高速輸送システム)ならコストを削れそうです。実際にJR東日本の気仙沼線BRTは運転手がいるものの専用レーン内では自動運転を開始しています。
コスト面の懸念があるものの、自動運転が実用化されれば鉄道の維持が難しい地域でも交通の利便性が保たれるでしょう。こうした地域は高齢化問題も抱えており、自家用車による移動が難しいため、公共輸送のニーズは大きいはずです。全国で進む自動運転の実証実験を通じて効率的な運営体制が確立され、交通インフラの整備が進むことを期待しています。
参考記事
2日付 日本経済新聞朝刊 「無人運転バス、定着挑む」
国土交通省 「自動運転のレベル分けについて」
https://www.mlit.go.jp/common/001226541.pdf