新聞ってよく読むとこんなに違う! 藤井最年少六冠の記事比較から探る

19日、藤井竜王が渡辺棋王を3勝1敗で下し、「棋王」のタイトルを獲得した。これで8つあるタイトルのうち6つを保持したこととなり、羽生九段が打ち立てた記録を29年ぶりに更新して最年少六冠を達成した。もちろん前人未到の最年少八冠への通過点に過ぎないが、ファンとしては活躍がニュースになるたびにやはり嬉しい。

20日付の朝刊は、朝日、読売、日経のどの紙面も「藤井最年少六冠」の記事が1面を飾っている。また、そろって社会面でも関連記事を展開しており、ニュース価値の大きさがうかがえる。ただ、子細に読んでみると新聞社によって着目している点が異なっている。そこで各社がどこに焦点を当てているのか比べてみた。

 

1面編

1番最初に目につくのは、3紙の中で朝日だけ見出しに「最年少」の文字がないことだ。代わりに「史上2人目」という言葉が使われている。最年少であることが、世間では一番の関心事であるように感じるが、羽生九段へのリスペクトを忘れない姿勢を示しているようにも感じた。

また、朝日が1面で違うところは局後の藤井竜王の談話だ。日経と読売は「まだまだ実力的には足りない部分が多い」と語ったところを報じているが、朝日は「立場にふさわしい将棋を指せるように、いっそう頑張らないといけない」という部分を採用した。いずれも勝っても謙虚で必ず反省や次を見据えた言葉を口にする藤井竜王の特徴を捉えていると思うが、個人的にはこの朝日のコメントが好きだ。局後の感想戦では笑顔を浮かべ、無邪気な面も垣間見せる藤井竜王だが、「立場」の一言にはわずか20歳にして棋界序列1位としての自覚や自負を感じられるからだ。

さらにファンや将棋通には当たり前で読み飛ばしそうになったが、読売と日経には「現在8つのタイトルがあり」という1文があり、朝日には見当たらなかった。たかが1文されど1文。門外漢に向けてはこういった配慮も大きな違いになる。

 

関連面編

・朝日

関連記事は最終面の1つ前にあたる社会面に置かれている。読売や日経はテーマや着眼点に「らしさ」を感じたが、朝日にはテーマ性は感じなかった。その分シンプルに、棋王戦第3局の振り返り、羽生九段との六冠への道筋の違い、昔のインタビュー、今後への期待など、内容が濃く読みやすい。それぞれのタイトル戦の日程や、誰が保持しているかがわかる顔写真も入りとても見やすい。

・読売

朝日と同じく社会面にある。読売のテーマは「人」だと感じた。見出しも「王者の風格」で、対戦相手の渡辺名人が局後の振り返りの時にさばさば話していたことが描かれているなど、他紙に比べて対局の雰囲気や二人の棋士の人柄が伝わってくる。藤井竜王の師匠の杉本八段や将棋連盟会長の佐藤九段のコメントがあるところにも、やはり人に着目していることがわかる。

また、対局そのものの内容にも踏み込んでいる印象も受けた。さすがと唸ってしまったが、決して難しくなく読みやすい。例えば今局の「角換わり腰掛け銀」という戦型は「昔からある作戦であること」、「AI時代の今でも進化が進む作戦であること」、これらを踏まえて「角換わりが得意な藤井竜王vs戦略家で知られる渡辺棋王の研究勝負が見どころであること」をきちんと押さえている。

・日経

関連記事は総合面(2面)と社会面(42面)にある。「経済」のイメージが強い日経が他の全国紙よりスペースを割いて将棋を取り上げていることを、日ごろ日経を読まない人は驚くのではないか。

テーマは「データと情報量」だと感じた。2面は八冠への期待が高まっているのは勝率の高さにあることを指摘し、データを意識する日経らしさを感じた。また社会面では、八冠へのハードルは移動が忙しくなることや過密日程など盤外にもあること、今局は角換わり腰掛け銀だったこと、地元ファンの盛り上がりの声など、コンテンツの質を意識した情報量の多さだ。

 

同じニュースでも切り口によってこれだけ多様になる。将棋1つでもそれがわかる。政治や社会の問題なら、なおさらそうだろう。日ごろから多くのメディアコンテンツを比較するには、私たちはあまりにも時間がない。気が向いたとき、自分が興味のあることについて実践してみたら、きっと世界の見方がぐっと広がる。

 

 

関連記事:

20日付 朝日新聞朝刊 1面 「藤井、六冠 史上2人目」

20日付 読売新聞朝刊 1面 「藤井 最年少六冠」

20日付 日本経済新聞朝刊 1面 「藤井六冠、最年少で」

20日付 朝日新聞朝刊 28面(社会) 「藤井六冠 最年少」

20日付 読売新聞朝刊 31面(社会) 「藤井 王者の風格」

20日付 日本経済新聞朝刊 2面(総合・政治) 「藤井六冠、異次元の高勝率」

20日付 日本経済新聞朝刊 42面(社会) 「藤井六冠、なお高み目指す」