冤罪が疑われている有名な事件の再審可否が明日13日、言い渡されます。「袴田事件」と聞いてピンとくる人も多いのではないでしょうか。1966年に静岡県で発生した味噌製造会社の専務ら一家4人が殺害された事件です。そこで逮捕されたのが社員の袴田巌さん(当時30歳、現在86歳)でした。この事件では、捜査段階での証拠の捏造の疑いや自白の強要に関心が向けられてきました。
そもそも、事件の経過はどのようなものなのでしょうか。時代は半世紀前に遡ります。当時の静岡県清水市、今の静岡市清水区で、全焼した住宅の跡から4人の遺体が見つかりました。全身に刺し傷があり、損傷が激しかったそうです。
事件から49日後に、パジャマに微量の血痕がついていることを根拠に袴田さんは逮捕され、自白をした3日後の9月9日に強盗殺人の罪で起訴されました。袴田さんは、1日16時間にも及ぶ長い取り調べで自白をしたものの、裁判では否定し、一貫して無罪を主張し続けたといいます。
袴田さんは再審請求をしたものの棄却され、1980年からは死刑囚として過ごしてきました。そこからの長い年月、再審を求め続ける中で、2014年に転機が訪れます。静岡地方裁判所が検察側に証拠の提示を促し、録音テープなどが新たに公開されたのです。さらに重要な証拠である「犯行着衣の衣類5点」に付着した血痕の色にも不審な点があるとして、静岡地裁は再審開始の判断を下しました。しかし、検察側の申し立てによって決定は覆されます。袴田さんは、この2014年に拘禁を解かれたものの、いまだに死刑囚のままです。本当の意味での解放を目指すためには、再審開始が重要な意味を持ちます。
明日の再審可否についての決定言い渡しでは、「犯行着衣」とされた衣類5点の血痕の色が焦点となります。この血痕付きの衣類は、事件の1年2ヶ月後に会社の味噌タンクの中から発見されたものです。裁判の当初は「パジャマ」とされた犯行時の着衣は、この5点の衣類にいつのまにか変更されていきました。しかし、この血痕が長期間味噌漬けになっていたにも関わらず「赤み」を帯びていることから捏造の証拠ではないか、と弁護側は主張しています。普通、味噌の成分がヘモグロビンの膜を破り、茶色気味に変わるというのです。もし味噌につけた状態でも1年後に血痕が赤みを帯びていれば、検察側の主張が通ることになります。
この事件を筆者は2014年の中学生の時に初めて知りました。ちょうど袴田さんが釈放され、事件の報道が盛んだった時期です。当時、まだ子供の筆者は率直に思いました。「人の命を奪うことができる刑罰が、こんな捜査の仕方で決まるのか」。本当に、素直な気持ちです。
複数の冤罪事件を見ていると、「全事件の取り調べの可視化」「証拠の開示請求には、捜査で得られた全証拠を公開する」といったことを徹底する必要があると感じます。現時点では、検察の持つ証拠は弁護側が請求しても開示の義務がないため一部しか公開されないケースがあります。袴田事件でも、2014年にやっと検察側の持つ新たな証拠が公開されました。よく考えてみれば、48年経って隠された証拠の一部が出てきたのです。そもそも捜査段階での取り調べの様子を、裁判員裁判のような形で市民もチェックできるようにし、健全な市民感覚で捜査の妥当性を判断することも必要に思えます。録画も全て保存し、求めに応じて公開すべきではないでしょうか。
明日、どのような決定が下るのでしょうか。筆者もこうした日をきっかけに、更に司法の手続きについて勉強しようと痛感しました。
【参考記事】
日経新聞デジタル 「新証拠の再現実験どう判断 袴田事件再審可否、13日決定」
【参考文献】
3月12日付 信濃毎日新聞朝刊 袴田さん 再審可否あす決定
静岡朝日放送 :【袴田事件】逮捕から57年…30歳の袴田さんは87歳に 再審開始の可否決定は13日…争点は5点の衣類の「色」
冤罪はなぜ発生するのか 木谷明