帝王切開から考える出産の形

26日の朝日新聞の朝刊に、帝王切開が7割を超えるエジプトのお産事情が掲載されていました。背景には「自然分娩よりも稼ぎになる」「手術の執刀実績になる」「出産時のトラブルが少なく、患者に訴訟を起こされずにすむ」といった医師側の事情があるようで、乱用は医療、社会問題にとどまらず出産費用をめぐる経済問題でもあると指摘されていました。

日本で帝王切開が出産に占める割合は2割程度だそうです。記事では、「帝王切開を正しく使う医師のモラルと、母親となる妊婦の意識が欠かせない」という言葉で締めくくられています。

筆者は、その2割程度に属する「帝王切開」で生まれました。母親のお腹には、出産の際にできた傷が今でも残っています。

漫画「コウノドリ」の10話は、「自然出産と帝王切開」がテーマになっています。どうしても助産院で自然分娩をしたかった女性の話です。しかし、かかりつけの助産院から病院へと緊急搬送され、母子共に最も安全な方法である「帝王切開」を余儀なくされます。女性は最後まで拒むも、「帝王切開は立派なお産」であると周囲に諭され、出産を決意。我が子を抱いた時に流した涙が印象的でした。この漫画を通し、病院で出産するのが一般的だと考えていた筆者の概念が覆されました。同時に、これほどまでに出産の形にこだわりを持つ女性たちの存在も知ることができました。

「自然出産と帝王切開」は「コウノドリ」3巻で描かれている(漫画アプリ『ピッコマ』より引用)

最近、読売新聞で無痛分娩の記事がありました。米国やフランスではお産の7~8割が、麻酔薬で痛みを緩和する無痛分娩なのに対し、日本では1割に満たないそうです。無痛分娩は、子宮破裂が起きるリスクに加え、促進剤で人工的に陣痛を起こすことで胎児に機能不全が起きる可能性もあります。そういった危険性を回避してのことかと思いきや、「痛みを乗り越えて母になる」との言い伝えを信じていることが紹介されていました。

「帝王切開で産むと子どもへの愛情が湧きにくい」。度々耳にするこの言葉、昨年もTwitter上で話題になっていました。このような言葉が蔓延るのも、先に示した言説のせいかもしれません。ドラマとして実写化された「コウノドリ」では若干の脚色が施され、帝王切開で産んだ幼い我が子をちゃんと愛せているのか不安に感じ、二人目を自然分娩で出産しようとする女性の話になっています。昨今の誤った情報の横行を踏まえての筋書きでしょう。

筆者はこの歳になってもまだ、母親からの愛情をひしひしと感じます。時には、「帝王切開だったから痛みが全くない状態で出産できた」「お腹の傷はあなたを産んだ証」と笑顔で話してくれることもあります。

出産方法が異なっても子への愛情に変わりがないことは医学的に実証済みです。しかし、周囲の心無い言葉に惑わされる母親がいるのも事実です。筆者も母親になる時が来るかもしれません。その時は、どんな方法であれ母親としての誇りを持ちたいです。

「どう産んだかよりも、どう思って産もうとしたか、その思いはきっと、赤ちゃんに伝わっています」。

コウノドリでのセリフが多くの人に届いていて欲しいと思います。

 

参考記事:

26日付 朝日新聞朝刊 埼玉13版 4面『帝王切開「72%」エジプトの事情』

12日付 読売新聞オンライン『無痛分娩「逃げ」じゃない 田辺けい子氏58』

参考資料:

2020年 5月13日 47NEWS 「帝王切開でも愛情低下せず 母子関係で富山大研究」