中国BYDに関する報道を見て思うこと

中国の電気自動車メーカー比亜迪汽車(BYD)の日本法人が、日本で販売するEVバスの部品に六価クロムを使用していたと発表しました。六価クロムは錆を防ぐメッキ処理に使用される化学物質ですが、毒性があり人体に有害だとされます。日本の自動車工業会は15年前から使用を自主規制しています。

BYD製のバスは国内で大量に流通している訳ではありませんが、筆者がかつて在籍していた大阪大の学舎間連絡バスに数年前から導入されていました。現在は冬休み中で運休していますが、新学期が始まったら運行を再開できるのか気になります。日経新聞の報道によると、京阪バスや富士急バスも導入していたため、急遽運行を停止した模様です。

このニュースを聞いて不安を感じた方も多いかもしれません。ただ、筆者は不安だけでなく感慨も覚えました。かつて中国製の車は品質が悪くて、日本で使う人は誰もいませんでした。中国市場においては、東風や長安、一汽などのメーカーがあったものの、多くは日独米の企業と合弁会社を設立して技術面で支援を受けていたのでした。

それが今や日本市場に来襲し、今回は少し悪いニュースではあったものの波紋を呼ぶとは改めて隔世の感を覚えます。家電製品の分野では15年以上前から海爾(Haier)や美的(Midea)、格力(Gree)といった中国メーカーに押され、パナソニックやシャープが苦労しているイメージがありましたが、ついに日本経済最後の柱たる自動車業界にも中国企業が本格参戦しているとは。市場競争が一層激しくなることは間違いありません。

日本ではBYDばかりが有名ですが、中国には他にもEVメーカーがたくさんあります。特に蔚来(NIO)、小鵬(XPeng)、理想(Li Auto)は「新興EV御三家(蔚小理)」と呼ばれます。2年前の年間販売台数は9万台余りで1000万台超のトヨタの足元にも及ばぬレベルですが、特筆すべきは創業年。いずれも2014〜15年に設立されたばかりの新しい企業でした。最近では小鵬の売上が不調で、哪吒(NETA)という第4のブランドが躍進しているといったニュースもありました。新しい会社が次々と勃興する中国、特に広州や深圳、東莞を中心とする南部の活力は凄まじいの一言に尽きます。

日本の自動車産業にも強みはあります。寒冷地ではガソリン車の方が強いですし、電気自動車とて蓄電池とソフトウェアだけで動く訳ではありません。鋼板やベアリング、タイヤといった部品では、歴史ある日本のメーカーの方が技術力でまだ優れていると思います。「ジャスト・イン・タイム」や「見える化」、「ニンベンのついた自働化」、「現地現物」といったトヨタの優れた生産方式と組織文化も簡単に真似できるものではありません。

100年に一度のモビリティー革命。安全性を大事にしながらも、企業間の競争によって技術発展が進み、より豊かなモビリティーライフが実現することを期待したいと思います。

 

参考資料:

25日付 日経新聞朝刊(京都13版)7面「バス部品に六価クロム BYD日本法人が発表」