Z世代へのマーケティングに、違和感があります

最近の若者を対象としたマーケティングには、年相応の支払い能力や暮らしぶりを無視したものが多いと思う。

22日の読売新聞朝刊に、高級ブランドとZ世代という記事が掲載されていた。コロナ禍以降もハイブランドの売り上げは堅調らしい。特に若年層をターゲットにSNSマーケティングを駆使しているそうで、「親しみやすさ」を理由にZ世代からの支持を集めているという。筆者も、ハイブランドへの購買欲が就職へのモチベーションの1つだったため、妙に納得した。

「若い世代からは、10万円以下のエントリーアイテムが人気」。この一文を見た瞬間、Diorのネックレス・チョーカー、グッチのネックレス、ロエベやDiorの財布と即座に製品が頭に浮かんだ。どれも知人が身につけているもので、世の中の動きを反映したインタビューだと思う。しかし、このニュースは頷ける部分がある一方で、Z世代マーケティングが好調なことに喜ぶブランド担当者には疑問が残った。

ハイブランドの財布は、低価格帯でも10万円近い値段がする。ルイヴィトン、グッチなどのバッグも安くて20万円程。こうした品は、週3〜4回のアルバイトでようやく8万円ほどを稼ぐ大学生、高校を卒業して就職した同年代の収入に不釣り合いだ。それでも未成年者や20代の若者に身近なものになっている。

似た構図が浮かび上がるのが、高額な美容整形のマーケティングだ。明らかに10代と20代前半にターゲットが設定されているが、必要な費用は一回につき数十万円が相場だという。最近では、頻繁にコマーシャルを流す大手の美容外科が「たった3年の高校生活、1秒でも長くカワイイ私で過ごしたい」という広告を電車内に掲載し、炎上した。「TikTok」でも美容外科の公式アカウントが、未成年者に対して整形を行う動画をアップしており、高額な整形を身近なものと感じさせるマーケティングが広がっていることに違和感を覚える。

この広告の他にも、「まだ一重のままなの?」と特定の身体的特徴を明示し、整形を煽る広告が新宿駅に出されたこともあった。もしも生まれつきの特徴を大々的に取り上げられ、否定されたらどう思うのだろうか。若く、判断能力に乏しい未成年は周囲の目を気にして高額な金銭を支払ってしまうかもしれない。そもそも、金儲けのために一定の集団の精神状態を揺さぶり、高額なサービスを契約するように煽ることは、許されるのだろうか。本来、個々人の異なる外見を肯定し、ありのままの姿を好きになれる雰囲気をつくるのが社会の役割だと思う。

最近では、SNSで未成年者が「親がお金を出してくれないので『パパ活』をしたいです」といった相談をしているのを目にする。優しい言葉に言い換えられているが、実態は援助交際、もっとストレートに言うなら売春に限りなく近い。高額な商品を過剰に煽ることはこうしたグレーな稼ぎ方をする若者の増加につながっている。実際、美容整形のためにこうした活動をしたと明言するアカウントも多数あるのだ。また、危険な稼ぎ方に抵抗感を示さない知人が筆者の周囲にも一定の数存在している。

SNSの普及に伴い、背伸びしてつくられた煌びやかな姿が目に入る。刺激を受け、欲望を煽るような内容が溢れる。こうした中、「親しみを持ってほしい」という甘い言葉を使いながら、SNSで高額な消費行動を促進させるマーケティング手法に少しだけ戸惑うのは筆者だけなのだろうか。

【参考記事】

2月22日付読売新聞朝刊 高級ブランドとZ世代

【参考文献】

WWD 「Z世代はラグジュアリーブランドがお好き セリーヌが伸長率1位となった2022年春夏の百貨店特選商況

※3月2日付で記事に使用された画像を削除いたしました。