用事があって上野駅に降り立つと、早朝にも関わらずたくさんの人が上野公園に向かっていました。想像を絶する人の数。上野公園には何度も訪れたことがありましたが、これほどの人を見たのは初めてです。公園前の広場が隅から隅まで人だらけ。そして、そのほとんどが一斉に同じ方向に歩いていきます。テレビカメラの姿もちらほらありました。
何事だろうと調べてみると、納得の説明が。上野動物のジャイアントパンダ「シャンシャン」の観覧最終日に遭遇したようでした。
2017年に生まれたメスのジャイアントパンダ、シャンシャン。上野公園生まれですが、明日、所有権を持つ中国に返還されます。
流れに従って上野公園を歩いていると、どこからか「7倍」という言葉が。これはもしかして観覧の倍率…?そんなに高いの…! と思って、調べてみると、実際の事前応募の倍率は24倍だったということです。最後の観覧時間はなんと当選倍率70倍。7倍どころの騒ぎではないようです。
「パンダ外交」という言葉があるように、日中関係において、上野のパンダは重要な存在でした。日経新聞の記事によれば、両国の関係が緊迫すると動物園に抗議の電話がかかってくることさえあったようです。政治に運命を左右されかねない点においては、シャンシャンもその例に漏れません。
日本に初めてパンダが贈られたのは、1972年。田中角栄元首相のもとで日中国交正常化が進んだ年です。日中共同声明が結ばれた後の記者会見で、「カンカン」と「ランラン」がやってくることが発表されました。その後も、ODA(政府開発援助)プロジェクトをめぐる交渉など、重要な局面では幾度もパンダが登場します。一方で、日中関係に緊張が走ると「パンダなんか借りている場合じゃない」「レンタル料を払って中国を潤わせてどうする」といった声が上がったのも事実のようです。
政治的にはいろいろと難しいのでしょう。しかし、パンダを見るとなんとなく嬉しくなるのが、多くの日本人の正直な気持ちではないでしょうか。シャンシャンを目当てに来たわけではないのに、最後なら観たいと、思わず観覧情報を調べてしまいました。残念なことに、完全事前応募制のこと。私は引き返しましたが、上野公園を振り返り「バイバイ、シャンシャン」と口にせずにはいられませんでした。
参考記事
20付 日本経済新聞朝刊 東京 1面「日曜日の上野動物園はいつにも増してにぎわっていた。ジャイアントパンダ、シャンシャン最後の観覧日(春秋)」
参考資料
「シャンシャン 中国返還前の最後の観覧 東京 上野動物園」(2023年2月19日)NHK 首都圏 News Web
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20230219/1000089931.html
「パンダと外交 切れない関係」(2020年7月22日)NHK政治マガジン
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/42110.html