主張する「地方創生」、誰のため?

 

「まる、たけ、えびす、に、おし、おいけ~♪」。読者の皆さんも一度は耳にしたことがあるかも知れません。京都の通り名の歌。丸太町通り、竹屋町通り、夷川通り……。歌詞をなぞるだけで、京の町の風景が浮かびます。そんな歴史ある京の都がいま、注目されています。

政府が地方創生策として進める政府機関の地方移転で、文化庁が数年後をめどに移ってくる見通しとなりました。石破茂地方創生相が24日に安倍首相に移転方針案の概要を説明し、大筋で了承されました。3月中旬に「まち・ひと・しごと創生会議」を開き、正式決定する予定です。文化庁は定員約230人のうち、長官を含む約200人を京都市内に移します。局長級の次長を1人増やして東京と京都に1人ずつ置き、1割程度の職員を東京に残すことで、業務に支障が出ないようにするといいます。

しかし、京都市への全面移転に対し、文化庁内からは「これまで通り、事業を進めることができるのか」と行政機能の弱体化を不安視する声もあるようです。「移転の前提は、機能強化。その人数では、国の文化行政はとてもまわらない」。東京に残す職員は1割程度という案に対し、文部科学省幹部は実現性を疑問視します。また、助成の対象となる文化関係の団体の多くは東京を拠点にしています。「対面でのやりとりや視察にかかる職員の移動の経費が増える分、アーティストや劇場への助成が減らされたら本末転倒」との意見もあります。

筆者は初め、文化庁が京都に移ることに対して肯定的でした。政治主導で中央官庁を率先して地方に動かすことで、民間企業にも移転を促せる。「地方の活性化」につながるのではないかと考えていたからです。しかし一連の流れを記事で読むと、「誰のための」地方創生なのか見えてきません。京都府・京都市側は誘致に熱心ですが、文化庁の言うとおり「行政の機能強化」がきちんと続けられるかどうかという疑問が残ります。職員の移動の経費など、お金もかかってしまいます。何より、当事者の声に耳を傾けることなく移転が進められていることに危うさを感じます。

文化庁だけではなく、以前から議論されていた消費者庁の徳島移転にも同様のことが言えると思います。「地方創生」という言葉のひとり歩きになるのではなく、「関係者の合意」の上で政策を進めていくべきでしょう。

 

参考記事:

27日付 朝日新聞朝刊(大阪13版)1面「天声人語」,5面(総合)「文化庁、京都へ全面移転 政府消費者庁は8月判断」