最近目にする「体験格差」。日経新聞デジタルの記事では、物価高の影響により体験格差が拡大している現状があると指摘されていました。年収300万円未満の家庭の子供ほど学校外の体験が少なくなっており、それは習い事や旅行など多岐にわたります。
習い事は「教育熱」や「競争社会」と結び付けられる事が少なくありません。そういった文脈では余剰なものとして語られ、時に批判もされています。しかし、子供が楽しみながら取り組んでいるケースは多いと思います。筆者が働くプログラミング教室でも、自分の興味から入塾した生徒が大半です。文理にとらわれず、プログラミングなどの科学的思考やアート思考を養う「STEAM教育」の影響で習い事に通わされている子供が多いかと予想していましたが、意外な結果でした。生徒の反応は「ここだけは休みたくない」「絶対辞めたくない」「楽しい」など前向きです。
授業時間の前半、ロボットへの命令である「プログラム」を組み立てる間は四苦八苦する様子を見せるものの、自ら考え、成功させた後にはとても嬉しそうにロボットを動かして遊んでいます。「将来プログラマーになってみたい」と話す子供達は眩しく、能動的に行う習い事は子どもの人生に強く影響を与えるものだと実感します。
また、学外の体験を通じて「狭い世界を俯瞰できるようになる」のも利点だと思います。大人になると分かりますが、学校という空間は非常に小さな場所です。たった数十人の学生と一人の先生の価値観を軸に過ごすため、その空間に迎合できないだけでも自己否定的な思考に陥りやすいです。
対して、生徒が学外の居場所をつくることで多様な大人の考えに触れることができます。筆者は小学生の頃に学校の先生から「もっと子供らしくしなさい」と強く否定されたことがありました。発表の際に関心を持った社会問題を話したいと申し出た時もテーマの変更を余儀なくされましたが、習い事先の先生達が筆者の関心を強く肯定した上で沢山の物事や本を紹介してくれました。そこで培った価値観は今も生きており、内定を得た出版界、新聞界での面接の大きな支えになりました。22歳になった今でも、学外で出会った大人との会話が人生に影響を与えているのだから驚きます。
東京大学の山口慎太郎教授は「子ども政策は消費ではなく投資。子ども政策に使えるお金を増やし、それをいかに有効に使うかが重要になる」と東京新聞の記事内で指摘していました。日本の子どものための支出の割合は、先進国の平均値を下回っています。子ども達は、自らの選択を実現できるかが家庭や様々な状況に左右される。だからこそ、社会が注視して守るべき存在ではないでしょうか。
人生の支えになる価値観や将来の夢は狙って生み出せるものではありません。子どもが試行錯誤し、自分の可能性を広げられるように「体験」をはじめとする子育てのための財政分配も望みます。
【参考記事】
日経新聞デジタル 「子どもの活動、物価高で「減った」 スポーツクラブなど」
【参考資料】
東京新聞デジタル 「子どものための支出「GDP比3%超は必要」 現在はフランスの半分しかなく… 東大・山口教授に聞く」