新幹線、ネット予約拡大の背景にある「JR個別化」の動き

別に私はJRの関係者ではないけれど、人々が鉄道を利用しているのを見るとなんだか嬉しくなる。師走の京都駅の新幹線改札口。次から次に人が入っていく様子を眺めていると、カードをタッチして入場する人が多いことに気づいた。交通系ICカードが誕生して今年で22年。チケットレスは新幹線でも浸透しているようだ。

新幹線を紙の切符なしで利用する場合、JRのインターネット予約の会員になり、ネット上で予約。紐づけられた専用のICカードを自動改札機にタッチして乗車することになる。

JR東海、西日本、九州管内の新幹線インターネット予約サービスは「エクスプレス予約」、JR東日本、北海道管内のサービスは「えきねっと」などと呼ばれている。エクスプレス予約(無料会員含む)の会員数は既に1000万人を突破したと報じられている。そして東海道新幹線のネット予約率は4割を超えている。

なぜ、JRはネット予約を推し進めるのか。チケットレス化を進めて、みどりの窓口の人件費や券売機のメンテナンスコストを抑えたいのは間違いないが、他にも理由がある。発券手数料の独占だ。

日本には7つのJRがあり、JR貨物を除くすべてがそれぞれの管轄エリアを持っている。例えば、大分と宮崎を結ぶ「特急にちりん」は、JR九州が運行している。にちりんの切符をJR新宿駅で買った場合、どうなるのか。新宿駅のみどりの窓口ではJR九州ではなくJR東の社員が働いている。当然人件費が発生しているため、客が払った大分―宮崎間の料金6,470円のうち、一部(約5%とする報道もある)はJR東に、残りがJR九州の懐に入るようになっている。

たかが5%、されど5%。特に額が大きい新幹線の場合は見逃せない。東海道新幹線(東京~新大阪)を運行するJR東海は在来線のエリアは東海地方のみで、新幹線駅を除いて首都圏や関西地方に販売拠点をほとんど持たない。そのため、チケットの「直売」があまりできず、JR東や西などに発券手数料をとられていた。こうした事情から、2001年に新幹線のネット予約を他社に先駆けて始めた。

どこでも簡単に手続きができるネット予約は非常に便利だが、気を付けなければならない「落とし穴」がある。それは、ネット予約の商品は乗り継ぎ割引が効かない場合が多いということだ。乗り継ぎ割引とは、原則として新幹線から特急に乗り換える場合(逆も含む)、在来線の特急料金が半額になるというものだ。

名古屋から和歌山に行く場合を考えてみる。東海道新幹線で名古屋から新大阪まで、そのあと「特急くろしお」に乗り換えて和歌山まで向かう方法がある。この時、新幹線から特急に乗り換えているので、「特急くろしお」の特急料金は半額になるはずだが、新幹線のチケットを駅の発券機ではなくエクスプレス予約で買ってしまった場合、直後の「特急くろしお」には乗り継ぎ割引が適用されない。

なぜ、このようなことになっているのか。ヒントは、新幹線のネット予約が誕生した経緯に隠されている。

既に述べた通り、新幹線のネット予約には発券手数料を自社で独占する狙いがあるようだ。自社の列車に乗った客が支払ったお金は自社に入ってくるべきという考え方はさまざまな商品からうかがえる。

JRは料金体系が非常に複雑で、前述の通り、JR東海管轄の東海道新幹線に直前に乗ったかどうかが、JR西の「特急くろしお」に支払われる額を左右するという乗り継ぎ割引の制度がある。

他社線の利用状況に関係なく、自社線を利用したらその分のお金を確実に頂戴する。国鉄民営化後に残ったいびつな分配構造をネット予約によって少しでも是正しようとしている現実がある。

営利組織であるJRによるこうした「個別化」の動きは当然とも考えられるが、時にそれは利用者の負担となる。例えばエクスプレス予約やえきねっとなど、会社によって予約サイトが異なるのはどう考えても不便だ。個別の利益を追求するJR同士が利用者のためにどれだけ協力体制を構築できるか。今後の大きな課題である。

参考記事:

2021年12月27日 日経電子版「20年目のエクスプレス予約 JR東海は観光需要狙う」

2023年1月1日 中日新聞「乗って幸せドクターイエロー JR東海が走行車両に乗車体験開催へ

2023年1月11日 日経電子版「JR東海社長に丹羽副社長が昇格 金子社長は会長に