12日の朝日新聞には、名古屋市が来年制定する方針のエスカレーターを立ち止まって利用することを義務づける条例が紹介されていました。珍しい条例らしく、これが全国で二例目だといいますが、なんと筆者が住んでいる埼玉県は全国の第1号として制定していました。
埼玉県では、昨年の10月から「埼玉県エスカレーターの安全な利用の推進に関する条例」が施行されています。施行にあたり、埼玉県の駅などで啓蒙活動が展開され、当時は多くのメディアに取り上げられたそうですが、筆者の記憶にはあまり残っていません。実際にエスカレーターを歩く姿は、特に珍しくない光景のままです。
大宮市での上りエスカレーターを歩く割合を計測した調査では、この一年で条例の効果が薄れてしまったことが確認されています。昨年11月5日に51.9%だったのが、今年1月14日には38.1%まで下がったにも関わらず、今年9月30日の調査では61.1%と上昇し、以前の水準に逆戻りしてしまいました。
名古屋市でも、最初は物珍しさから改善に向かうかもしれませんが、効果を持続させることは難しいことが予想されます。解決策はあるのでしょうか。
まず、一般的にエスカレーターを歩くことの危険性は周知されてきているようです。一般社団法人日本エレベーター協会が行っている調査を見ると、「エスカレーターの歩行はやめた方がいいと思う」という問いには約9割もの人がはいと答えています。にもかかわらず、6割程度の人が依然として「エスカレーターを歩行してしまうことがある」と答えています。この危険度と歩行率のデータは、2017年度から一貫して改善の方向に向かっています。少しずつではありますが、PRの成果は出始めているのです。
だからこそ、他の市や県が同様の条例を出すことによる、横断的な取り組みが必要なのではないでしょうか。例えば、埼玉県には東京に通勤通学している人が多くいます。筆者も東京の大学に通っていますし、乗換駅の二つはどちらも都内にあります。両者に対策の温度差があれば、解決は難しいでしょう。
「マスクを外すべきか否か」という議論に未だ明確な答えを出せていないように、出来てしまった習慣に抗うことは難しいものです。しかし、マスクとは異なり、エスカレーターで一人が右側で立ち止まれば、後ろの人も立ち止まらざるを得ず、周りも自然と合わせなければなりません。周囲の反発を覚悟して飛び込むファーストペンギンが現れれば、解決に向かうはずです。
残念ながら、歩く人用という思い込みがある右側で立ち止まるには勇気がいる他、迷惑行為だとも捉え兼ねられないのが現状です。エスカレーターは立ち止まって乗るものだという常識を、もっと大々的に広めていくための政策が求められています。
参考記事:
・12日付 朝日新聞デジタル「エスカレーター「立ち止まって」条例 名古屋市、制定へ:朝日新聞デジタル (asahi.com)」
・11日付 朝日新聞デジタル「エスカレーター改革、一歩一歩 「歩かない」条例の埼玉、浸透模索:朝日新聞デジタル (asahi.com)」
参考資料:
・エレベーターの日「安全利用キャンペーン」アンケートの集計結果について(2021年度)