手羽先、チキン南蛮、から揚げ…鶏料理ってなんで味付けが濃いんだろう

名古屋で手羽先を食べながら思った。鶏料理ってどうしてこんなに味付けが濃いのか。手羽先は、食べた後の指先に塩コショウがしっかりつくレベルで味付けがされているし、筆者がこよなく愛する宮崎発祥のチキン南蛮も甘酢とタルタルソースの味でほぼ支配されている。鶏のから揚げも、30分ほどしょうゆに浸け置き下味をつけるという他ではなかなか見られない作業がある。もはや鶏本来の味とは何なのだろうと今更ながら思う。

豚肉や牛肉の味はなんとなく分かる。とんかつを食べて「甘い」と言う人もいる。その表現が適切かどうかは別として、少なくとも素材そのものからも味が感じられるのは間違いない。

鶏は他の肉と比べてどんな特徴があるのか。農学部4年の知人と教授の手を借りながら調べてみた。

明治時代以前。鶏に卵を産ませ、最終的にそれを食肉としてもいただくという方法をとっていたらしい。しかし、第2次世界大戦中、アメリカで肉の需要が急速に高まり、孵化から出荷までの期間が短い品種が求められるようになった。一般的に、鶏は発育スピードを速めるほど、卵を産む数が減ってしまうという負の相関関係(相関係数はマイナス0.4)が知られており、成長速度に特化した品種がつくられた。それがブロイラーだ。

もともとニワトリは孵化から10週間後に出荷していたが、品種改良により2000年には6週間でも十分な体重まで太らせられるようになった。飼育の期間が短いことでエサの総量も少なくて済むからブロイラーは安価だ。この品種は世界各地に広がり、現在、日本で流通している鶏肉の9割以上を占める。

「そもそもニワトリって空飛ばないからね」。鶏肉について熱く語ってくれた友人がぼそっと言った。飛ぶことがないにも関わらず、孵化から50日ほどでむね肉などが大きく増える。品種改良がもたらす異常さを感じた瞬間だった。

筋肉は速筋型と遅筋型の2つに区別でき、両者は味が異なる。保水性が高い遅筋タイプは、噛んだ時にしみ出る肉汁の量が多い。水分がしっかりと保たれているおかげだ。一方、ブロイラーは他の品種よりも遅筋型の筋肉の割合が低く、うまみが少ないと言われている。

数では圧倒的にブロイラーに劣るが、地鶏と呼ばれる品種も生産、消費されている。明治時代までに日本に導入されていた在来種の血が50%以上入った国産鶏の総称である。日本農林規格(JAS)によって、飼育期間は75日以上、孵化から28日目以降は1平方メートル当たり10羽以下で育てることが義務付けられている。孵化から50日ほどで出荷できるブロイラーと比べはるかに飼育にお金がかかることが分かる。

 

「やっぱりお金がないとなかなか地鶏には手が出せない。経済格差は実は出てるんだよね」。教授は言う。鶏肉市場の9割超がブロイラーである以上、経済的に豊かな人であっても地鶏だけしか食べないということはなかろう。ただ、口にする頻度は人によって違う。

放し飼いにしている地鶏は遅筋型の筋肉が多く、歯ごたえがあって味が濃い。うまみの少ないブロイラーは調理の際に味付けを濃くすることで、食べた時の幸福度や満足感を地鶏に近づけているのが現状だ。

ついでに先生はソーセージについても教えてくれた。形が不揃いのくず肉を捨てるのはもったいないという理由で、羊の腸を活用して食べられるようになったソーセージ。寄せ集めた肉の中には時間が経って腐りかけたものもあったから、かつての人々は香辛料をふんだんに使って風味をごまかしていたらしい。

人間の知恵はすごいなとしみじみ思う。人口爆発による需要の増大や経済格差に対して、品種改良に加えて調味料という文明の利器を使うことで上手く対応してきた。どういう経緯であれ、人々が幸せに感じるようになるならそれは素晴らしいことだと思う。ただ、食糧事情の裏側にある社会的問題が見えにくくなっているという側面には注意が必要かもしれない。

 

参考資料:

『品種改良の世界史 家畜編』正田陽一編、松川正ほか著、悠書館、2010年