完全に興醒め。この一言に尽きます。昨日、将棋のA級順位戦で佐藤天彦九段が一定時間マスクを付けなかったことにより反則負けを宣告されました。将棋そのもののルールとは関係ない些事による呆気ない幕切れ。筆者はリアルタイムで観戦していた訳ではありませんが、佐藤九段の無念は察するに余りあります。
前代未聞の事件が起きた理由は、将棋連盟が今年2月から実施した臨時対局規定です。棋士は対局中にマスクを着用しなければならず、着用しない場合は反則負けとする趣旨の規定が設けられました。反則負けの判定は立会人が、立会人のいない対局では代行者が行います。実施期間は2月1日から当面の間で、期限は理事会が判断します。
昨日28日の午前10時に始まった佐藤-永瀬戦では当初、両棋士ともにマスクを付けていました。しかし、23時頃佐藤九段がマスクの紐を片耳から外し、その1分後に水を飲むとき両耳から完全に外し取ります。1時間ほど経過すると鈴木理事が突然現れ「対局中に失礼します。ちょっと席を外してご相談がありますので、一旦対局を止めてもらって宜しいでしょうか」と声をかけ、別室にて終局が通知されました。
規定に従えば、今回の反則負けは妥当です。反則負けを判断する前に注意を促すイエローカードのような仕組みは存在しません。とはいえ、情けのかけらもない杓子定規的な裁定には失望させられます。将棋はファンあってこその娯楽であり、ファンは盤面のドラマを望んでいます。こんな中途半端な終わらせ方で誰が喜ぶのでしょうか。思いがけず勝利を拾った永瀬王座とて後味の悪さを残しました。うまく融通を利かせて欲しかったです。
そして融通以前に、規定が妥当性を欠くと思います。対局中は一切会話せず、静かに黙って座るだけです。マスクによる感染予防効果はほとんどなし。感想戦のときだけ着用すれば十分でしょう。多くの棋士はマスクが息苦しく思考や集中力の妨げとなると指摘しており、マイナス効果にも改めて目を向けるべきです。
臨時規定は将棋連盟の理事会で決められたようですが、より多くのプロ棋士や感染症の専門家の意見も取り入れて見直して欲しいと思います。少なくとも一発反則負けは厳しすぎます。一度決まったことを覆すのは難しいかもしれませんが、可能なら対局も最初からやり直して欲しい。佐藤九段の努力を想うと、本当にやりきれない気持ちになります。
参考資料:
29日付 朝日新聞朝刊(京都14版)27面「佐藤九段 反則負け マスク外す」