朝、仕事に出掛けていく祖母を見送る。筆者が小学生の頃だ。70歳になるのに介護施設で働く祖母に、「ばあちゃんが、ばあちゃんの面倒ば見ると?」と問いかけた記憶がある。
そんな光景が当たり前になりつつあるのではないだろうか。65歳以上の人口は2040年頃にピークを迎えるという。介護を必要とする高齢者も増え続け、厚労省の推計では、介護の担い手不足は25年度に約32万人、40年度には約69万人に上るとされている。
このような状況にもかかわらず、現在でも職員の不足は深刻だ。
厚労省によると、有効求人倍率は、今年8月時点で3・72倍(全職業平均は1・18倍)と、採用が難しい状況が続く。平均賃金(21年、賞与など含めて月収に換算)は28万5000円で、全産業平均の35万5000円より低いことも人気がない一因とされる。(10月24日付読売新聞オンライン)
介護の仕事は、肉体労働で夜勤もあるなど職員にとっての負担は大きい。かつての祖母も、数日おきに夜勤がある不規則なスケジュールで、夜は少ない人数で対応しなければいけないため大変だと話していた。また、祖母自身高齢のため、腰や膝が痛めてしまうことも多かったようだ。自分で動けない人を抱きかかえたり、常に動き回ったりする必要がある仕事は、高齢になれば辛いものになる。若い労働力が必要であるにもかかわらず、職員の中心は4、50代だ。将来的には、若者のみでなく、現在中心となっている年齢層の人材まで不足してしまうのではないかと思う。
「子育てが落ち着いた40代前後の主婦層を新たなヘルパーとして雇用したいが、コンビニエンスストア(コンビニ)や大型ショッピングセンターの仕事に人が集まり、雇用が難しい」(「介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか」結城康博 岩波ブックレット)。
訪問ヘルパーの場合など、天候に関わらず移動して働く必要がある一方で、コンビニやスーパーは温度調節された店内で働くことができる。賃金がそれほど変わらなければ、多くの人が後者で働きたいと考えるのは当然だ。
人材不足の解決策として挙げられてきた外国人労働者についても、今後どれだけ確保できるのだろうか。現在の円安は、日本で働きながら仕送りをしている彼らにも大きな影響を与えている。
23日付の読売新聞で、介護職として日本で働くインドネシア人男性の声が紹介されている。給料の低さから同期の職員が皆やめてしまう、言語の問題で苦労を抱えているなど、日本で介護をする上での難しさが語られていた。
今後、必ずしも外国人労働者が日本を出稼ぎ先として選んでくれる保証はない。
これからも増え続ける需要に応えていくためにも、若者や外国人が働きやすい環境、他業種と比較しても十分な賃金にしていくことが重要だ。今は元気でも、将来的には自分達が介護を必要とする時が来るかもしれない。未来の自分達のためにも状況の改善をより進めなければいけないのではないか。
参考記事:
・10月24日付読売新聞オンライン「[安心の設計]介護現場 どう改善?…厚労省介護保険部会で議論」
https://www.yomiuri.co.jp/life/20221023-OYT8T50036/
・10月23日付読売新聞オンライン「[ニッポン暮らし 聞く]10月23日」
https://www.yomiuri.co.jp/serial/kiryu/20221022-OYT8T50045/
・10月21日付朝日新聞デジタル「円安、仕送りも直撃 帰国する外国人労働者「日本はこのままだと…」」
https://digital.asahi.com/articles/ASQBM5JXQQ9FULFA00Z.html?iref=pc_ss_date_article
参考資料:
「介護職がいなくなる ケアの現場で何が起きているのか」結城康博 岩波ブックレット