埋まらない将棋界のジェンダーギャップ 解決には何が必要?

初の女性プロ棋士誕生が期待されていた里見女流六冠(挑戦時は五冠)だったが、結果は3連敗で不合格。男性プロ棋士の壁は想像以上に厚く高いものだった。直近の対局で「白玲」のタイトルを奪取。六冠に返り咲き、タイトルは通算50期に。さらに8つある女流タイトルを全て経験したことになり、決して調子が悪かったようには感じられない。では、どうしてこうもジェンダーギャップが埋まらないのだろうか。

 

<そもそも差がある競技人口>

現在の将棋人口の男女比は8:2に届くかどうかといったところ。20年前、小学生大会では99%が男の子ということも少なくなかったという時代に比べれば、女性の将棋人口は大きく伸びてはいるものの、未だに少ない。奨励会というプロ棋士を養成する機関に限れば、1961年から2022年7月まででたった20人。現役の奨励会員では180人中2人。男性のプロ棋士しかいない現状にも納得のいく数字である。

<変えられない性差>

棋力差の原因に生理やPMS(月経前症候群)の存在を指摘するのは、女流四段の上田初美さん。昇段には一定期間好調を維持しなければならないが、体調を理想的な状態で保つことが難しい。また、将棋など頭を使う競技にとっては致命的なことだが、生理やPMSに伴って集中力が低下することがある。

さらに、出産というライフイベントなども影響する。子供が生まれるとなれば最短でも4か月程度は休まなくてはならない。休めば順位は落ちるし、育児も並行してとなれば勉強時間や準備時間が減り、実力を維持しづらくなる。出産を経験した上田さんも、女性のプロ棋士は誕生してほしいが、個人の幸せを考えると複雑な気持ちになるという。20代半ばが出産適齢期と言われるが、棋士の最盛期も20代半ば。男女で同じ条件で戦っていくなら相当な覚悟がいる難しい道になる。

<ジェンダーギャップだけでなく多様性も広がらない背景>

藤井五冠というスーパースターの誕生で随分注目度が上がった将棋だが、うまく将棋人気に繋げられないでいることもまた事実だ。将棋界というマーケットが、小さなままに留まっている原因として指摘されるものが3つある。

1つ目は将棋のプロ世界が閉鎖的ということ。基本的にプロになるには奨励会に入り、四段に昇段しなければならず、26歳という年齢制限までついている。もちろん、伝統や文化としての一面がありうまく折り合いをつける必要はあろうが、もう少しプロ棋士の門戸を広げて多種多様な人材を受け入れ、将棋界と他業種や社会との接触を増やす必要がある。

2つ目はグローバル化への取り組みが不足していること。ルールや駒の動きなどを外国語で学べる書籍やアプリは少なくとも筆者の知る限りではない。また、将棋は囲碁やチェス、バックギャモン、オセロなどのボードゲームと違って駒に文字が入っている。海外の人が、漢字が書かれた駒をどれだけ正しく認識できるだろうか。これに関しては、「大明駒」というユニバーサルデザイン賞を取った視覚的に駒の動きがわかる駒がある。もっとこうした駒の普及にも取り組みにも力を入れなければならない。

3つ目は長く続いているメディアとの関係だ。1つ目でも触れた通り、将棋には文化や伝統としての側面もあるため、新聞社などが長らく支えてきたのもある程度納得できる。ただ、一方でエンタメでありスポーツとしての性格もある。eスポーツの発展など、エンタメやスポーツ界も時代に合った形にモデルチェンジをしてきた。将棋そのものが継続できなければ元も子もない。新たな視点を取り込むため、他の業種も運営側に迎え入れるなど、常識を超えるような改革がないと将棋人口そのものは増えていかないのかもしれない。

 

 

筆者は男性であるため、性差に関しては辛さを正しく理解することは正直できない。どんな制度があればよりジェンダーギャップが縮まるかは、当事者である女性が声を上げたり発信したりしていくことが、一番の近道であるように感じる。ただ、そうした議論や発信がより影響力を持つためには、やはり女性の競技人口の増加や多様性の深まりが必要不可欠だ。

何も将棋界だけの話ではない。もしかしたら、読者の皆さんの興味のある分野で起きた変化が、将棋界を変えるきっかけをもたらすかもしれない。将棋自体にはあまり興味がなくても、将棋を起点に社会を考えてみてもらえないものか。

 

参考記事:

20日付 日本経済新聞朝刊 31面(特集) 「第12期 将棋リコー杯女流王座戦 五番勝負 26日開幕」

14日付 読売新聞朝刊 33面(社会) 「里見『棋士』に不合格」

14日付 朝日新聞朝刊 31面(社会・総合) 「里見女流五冠、『棋士』届かず」

参考資料:

文集オンライン 「なぜ女性棋士はまだいないのか」女流棋士の私が考えてみた | 観る将棋、読む将棋 | 文春オンライン (bunshun.jp)

東洋経済オンライン 将棋の「女性プロ棋士」がいまだに誕生しない理由 | 特集 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

東洋経済オンライン 将棋界が「藤井人気」を生かせない3つの根本問題 | 特集 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)