「Googleに口コミを投稿したら、会計時5%割引!」 これってあり?

初夏、都会を離れて旅していた際、昼ご飯をどこで食べようか迷っていた。とりあえず和食を食べたいと思っていたが何せ店の数が多い。そこでGoogle Mapを使った。「飲食店」などと検索すると条件に合った店舗が地図上に表示され、レビュアーが寄せた店の評価の点数(星1~5)の平均値まで分かる。店選びに迷うとき、客観的数字で比較できるのはありがたい。

調べていると、断トツで点数が高い店が見つかった。平均点が4.5を超え、満点に届きそうな勢いである。同じような料理を提供する半径10㎞以内の飲食店の星はおおよそ3~4点の範囲におさまっていたため、目立つ。口コミの数も他の店の2倍以上あり、店の様子が想像しやすい。「どう考えてもここだ」。即決した。

きれいな店だった。入ると「Googleで口コミをすると会計時、割引!」の貼り紙が。口コミの数が異常に多い理由が分かった。また、口コミをしたかどうかは店員に確認してもらうようで、心理的に低い評価がつけにくい。巧妙な仕掛けだが、客の損得勘定を利用することで自由な評価を歪めていることに違和感を覚えた。

料理が運ばれてきた。他の店とは明らかにレベルが違うとまでは思わなかったが、美味しかった。料理を食べている間、口コミをしてお得に帰ろうか、それとも参加せずに反対の意思表示をするかずっと悩んでいた。ただ、気になったのでキャンペーンに乗ってみることにした。店員の目もあり星の数は5である。

レジで会計をしている際、口コミをしたか聞かれたので、自分の投稿を見せた。店員さんは「どうもありがとうございます」とは言ったが、スマホの画面を一瞥するだけで、星の数までは見ていなかった。200円ほど割り引かれた上で会計を済ませたが、私はこの制度の目的が少し分からなくなっていた。そこで後日店を訪れ、店主に尋ねてみた。

 

「やっぱ若い人にお腹いっぱい食べてほしいんですよね」と50代の店主。学生に絞るなら学生証の提示で解決するが、社会人になりたての人など、財布にまだ余裕がない層も対象に含めたかった。そこで、若年層の利用率が高いGoogleアプリに目を付けたらしい。取材中、店主は「若い人」や「若者」という言葉を計6回も口にし、その熱い思いを感じた。

インターネットなどを使える人と使えない人との間に生じる格差デジタルデバイド。ネガティブな文脈で捉えられることが多いこのギャップを逆手に取り、ターゲットの本命である若者に恩恵を与える手法は斬新だ。

店は2020年春にオープン。新型コロナが直撃して初年度は客の数が期待に遠く及ばなかった。とにかく店の存在を知ってほしいという思いが、割引制度を始めたもう一つの理由らしい。高い評価をつけてもらいたいわけではないため、従業員には客のスマホの画面をまじまじと見ないようにと指示しているらしい。それでも「お金で高評価を買っている」といった異論があったことから、あらためて取材した9月にはその仕組みは止めていた。

Google Mapの口コミでは星5段階で評価。その平均値が表示される。

口コミはどうあるべきなのか。面と向かってなかなか言えないことでも、文章だったら書けるという場合はある。もちろん、根拠のない無責任な発言や言いがかりは許されないが、建設的な意見であったとしても必ずしも相手に直接言えるとは限らない。口コミの効用を台無しにしてしまう取り組みには慎重になるべきだと思う。店員に評価を見せる必要がないなら、予めそう告知しておけばよかったのに。

口コミと割引を紐づけることについて、みなさんはどうお考えだろうか。「絶対に許されない」という意見もあろうが、私は全面的に否定されるべきものではないと思っている。「情報があふれるインターネット社会」とはよく言われるが、世のすべてが網羅されているわけではない。料理の写真が合計で3枚くらいしか出ていない飲食店もざらにある。そんな中で、この店はキャンペーンのおかげか写真の数が周囲の店よりも格段に多く、旅行者にはかなり役立った。写真などの客観性の高いデータがたくさん出回るようにするために割引というインセンティブを活用することは決して悪いことではないと思う。

プラットフォーム事業者が用意する言論空間は今日、我々の思考に強く影響している。このことは、フォローする人と支持政党との関係といった政治的な事柄で注目されることが多いが、実際はそれにとどまらず、「どこの店に行くか」や「何を買うか」など、日常生活の判断にも強く関わっている。インターネット空間が実際の経済活動とどう関わるべきかについても真剣に考えていかなければならない。

参考記事:

10月6日 読売新聞オンライン「口コミ装い宣伝投稿、『ステマ』法規制検討へ…消費者庁が年内にも具体策 欧米では違法の国も

7月4日 朝日新聞デジタル「(記者解説)マスク氏のツイッター買収 有害投稿への介入減に懸念 編集委員・五十嵐大介

6月28日 朝日新聞デジタル「アルゴリズムの開示、何をどこまで 食べログ判決が生む二つの余波

2019年12月25日 日経電子版「ネット口コミを読み解く(4) 『星』の数は頼れるか」

参考資料:

Google マップのユーザー作成コンテンツに関するポリシー

Instagram コミュニティガイドライン