8月25日、小中学校でのデジタル教科書の活用を議論してきた中央教育審議会の作業部会が、2024年度から「英語」で導入する中間報告案を公表しました。「算数・数学」についても25年度から導入する方向性を示しています。一方で、児童生徒が紙とデジタルの教科書を両方使える環境が必要とし、当面の間は併用することが明記されました。
どのように活用していくか議論が交わされているデジタル教科書。メリットとしては、紙の教科書と違い、英語の発音を聞いたり、より立体的に図や写真を見たり出来ること。生徒一人ひとりのデータを活用し、得意不得意を可視化することが出来ることなどが挙げられます。
これらの中でも、英語の発音や得意不得意の可視化はデジタルの大きな利点だと感じます。何人もの生徒を受け持つ教員は、生徒一人ひとりの学習状況を細かく把握するのは困難です。学習記録を見て、それぞれにあった指導ができるようになれば負担も減り、生徒側も自分の改善点を把握しやすくなり、両者にとって大きなメリットです。英語の発音についても、授業中いちいちC Dを準備する手間も時間も必要なく、ネイティブの発音に触れられます。
筆者が高校生だった時、英語の授業中C Dプレイヤーが使えなくなり、先生の読み上げる英文をひたすら聞かされました。C Dの音声とかなり違った発音で、これで意味はあるのだろうかと疑問に感じたことをよく覚えています。出来るだけ実の良い教材で効率よく学べる点はデジタルの特徴として評価すべきだと思います。
一方で、デメリットとしてスクリーンの見過ぎによる健康問題や、自治体や学校、教員によって格差が生まれてしまうことが挙げられます。
9月6日付の読売新聞朝刊では、「デジタルスクリーン症候群」について取り上げられていました。米国の精神科医、ビクトリア・ダンクリー氏は、子供がパソコンやスマホなどのスクリーンを見すぎると、
「神経が過度に刺激され、常に興奮し疲れた状態となり、イライラしたり注意力散漫になったりする」。「スクリーンタイムが長くなると、肥満や睡眠障害が増え、成績が低下する。こうした心身の健康や学習面での問題が日本でも増えるだろう」「端末で学ぶと集中力も落ちる。学校でのICTのあり方を見直す必要が出てくるかもしれない」と語ります。
デジタル教科書に限らず、デジタルツールの使いすぎによる睡眠不足や集中力の低下は社会的な問題になっています。2020年に出版されベストセラーになったアンデシュ・ハンセン氏の「スマホ脳」(新潮新書)。「バカになっていく子供たち」という章の中で、スマホなど画面を見たいと言う衝動を抑える能力が子供の時期には未発達であり、デジタルの教科書であれば、その衝動を抑えること、無視することに貴重な処理能力を費やし、紙より学びの結果が悪くなるとしています。これらのスクリーンによる悪影響について、慎重に考慮するべきではないでしょうか。
現在のところ、紙と併用される予定のデジタル教科書ですが、個人的にはあくまで紙の教科書の補助教材として利用するのがいいのではないかと考えます。英語の発音を聞いたり、図や表を用いたり、成績を可視化することもデジタルをメインにしなくても出来ることだと思います。利便性や真新しさだけを追求するのではなく、悪影響についても目を向けるべきです。デジタル教科書導入の目的は、より良い学びを子どもに提供し、学習を深めてもらうことにあると思います。メリットデメリットを比較して、二つの媒体のいいとこ取りをしていくのがこれから学んでいく子供たちにとって最適であると考えます。どのような方向で検討するにしても、子供たちのためになるような利用を目指してほしいです。
参考記事:
9月6日付読売新聞オンライン「[eyes]パソコン、スマホ 見過ぎ弊害…米国の精神科医 ビクトリア・ダンクリー氏 52」
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/feature/20220905-OYT8T50157/
9月4日付朝日新聞デジタル「2年後導入のデジ教科書、授業どう変わる 文科省作業部会トップ語る」
https://digital.asahi.com/articles/ASQ923TYZQ8LULZU004.html?iref=pc_ss_date_article