語学研修でインターナショナルコースのあるタイの高校の授業に参加する機会があり、驚いたことがありました。「仕事」について考える時間があったことです。英語の授業での一コマでしたが、筆者には初めての体験でした。
授業を受けていたのはM5の生徒、日本なら高校2年生です。英語の授業は何種類かあるのですが、そのうちの2つが「仕事」について取り上げていました。一つは、リスニングとスピーキングの授業です。歴史の中でよくないとされている仕事が何なのかを学び、その後、自分が夢みる仕事を調べ、その仕事を実際にしている人や、それを良く知る人にインタビューを行うというもの。筆者は「WORST Jobs In History」というYouTubeの動画を見るところで参加しました。イングランド、スコットランド、ウェールズで1600年から1900年初期に存在したという「SIN EATER」はその一例。亡くなった人の上にのせたご飯を食べることで、その人の罪を食べ、罪を吸収するという仕事です。そのため、周りの人からは嫌われ、恐れられる存在になっていました。
もう一つの授業はESLという英語以外を母国語とする人のための英語学習です。「あなたの夢は何か」を聞くところから始め、仕事を決め、実際に働くときに大事なことを生徒同士が話し合いました。こちらも後に現場で働いている方々にインタビューするようです。
強く感じたのは、将来と向き合う時間が授業の一部に組み込まれ、先生も生徒もそれを大事にしているということです。前者では、動画を見たのち、「今はないけど、こんなきつい仕事があったんだ」「私初めて知った」などの意見が交わされていました。後者では「あなたの夢は何ですか?」という先生の質問に「私は宇宙飛行士になりたい」「僕は薬剤師」「僕はラッパー」「悩んでいるけど、医者になりたい」とそれぞれが自分の夢を堂々と宣言したところからスタート。次にイラストを見て何をしている仕事かを考える時間が続きます。それに続いて「夢は変わった?」という問いかけが。「小さいころ女優になりたかったけど、勉強していく中で変わった」「高校に入るときは言語に興味があったから、語学の学校を選択したけど、今は興味が異なる」など、変わったきっかけやその理由を話しだしました。
さらに「給料についてはどう思う?」という先生の質問に、「生活をするうえで必要」「けど自分が興味を持っていることをやれることの方が重要じゃないか」「バランスが大事だと思う」など正解がない中で意見を出し合いました。他にも「興味だけでなく、仕事の快適さも大事だ」という声が多くの生徒から飛び出し、高校2年生でここまで将来の自分を思い描き、大切にしたいことや自分の思いを言葉にすることができること、そうしたことを学ぶ環境があることに驚かされました。
今回のタイの授業を通じて、早めに将来の選択肢を広げ、自分の考えを持つ大切さに気付かされました。日本の高校の授業では、受験や就職に向けた勉強がほとんどを占め、その先について考える機会はなかなかありません。高校で理系・文系に分かれるときこそ将来を考える機会になりますが、「文系の科目が得意だから」「今なら理系に行った方がいいから」という声が筆者の周りでは多く、かなり安易に決めていたように思います。
筆者が自分の将来や仕事と最初に向き合ったのは、高校2年生の冬でした。そのころ知っている「仕事」は、先生、医者、薬剤師、スポーツ選手、スーパーの店員、銀行員、美容師、パイロット、アナウンサーなど。テレビやドラマ、身近な生活で接触する職業ばかりで、世界がかなり狭かったのです。それでも、農学部だと食品衛生管理者や毒物劇物取扱責任者という資格が取れる環境があり、将来はその資格が生かせる仕事に就ける、法学部を卒業すれば裁判官への道も開かれると考え、大学の卒業生の就職先を必死に検索し、「仕事」というものに自分なりに向き合った記憶があります。「やりたいとできるは違う」と言われたこともありますが、そもそもどういった選択肢があるのか知ることが大切だと思います。
大学3年生から4年生にかけての就職活動は、何になりたいのか、その仕事は具体的にどういう仕事なのか、何を大事にしたいのかを再確認する機会となりました。やりたいことが変わったらどうしよう、この先ずっとこの仕事で大丈夫かな、そんな不安もありましたが、もっと仕事ややりたいことに向き合い、考える時間があってもよいのではないでしょうか。
今日の読売新聞の「顔」では、サッカーの女性プロ審判の仕事とやりがいを、朝日新聞の「Reライフ 輝く人」では85歳の英会話教室で毎日教えている男性の意欲の源を紹介していました。朝日新聞の番組情報欄の連載『撮影5分前』では「様々なプロの誇り描く」とのタイトルで、現在放送中のドラマ「NICE FLIGHT!」で登場するさまざまな職種を紹介。今まで意識して調べなければ分からない仕事が見えてきます。
タイの授業には参考にすべき点が少なくありません。日本でも、将来を考え、仕事を知る機会を教育現場はもとより多くのところで増やすべきでしょう。
参考記事:
28日付 朝日新聞朝刊(兵庫14版)20面 撮影5分前「テレビ朝日 神田エミイ亜希子 様々なプロの誇り描く」
28日付 朝日新聞朝刊(兵庫14版)22面 リライフ 輝く人「新しいこと 明るく突撃」
28日付 読売新聞朝刊(東京12版)7面 コラム 顔Sunday「晴れ舞台で試合支える覚悟」
参考資料:
YouTube 「WORST Jobs In History」