障がいのある子どもの性被害 法整備を急げ

障がいのある子どもたちが性暴力の被害にあう危険度が高い事実をご存知でしょうか。内閣府の調査によると、発達障害のある男性は1.5%、女性は7.8%が「無理矢理に性交等」をされた経験があったそうです。また、別の調査では、発達障害のある女性の33%が「望まない人と性行為」をした経験があるというデータもあります。様々な研究があり、データも多様ですが、障がい女性は健常女性に比べおおよそ2~3倍の比率で性暴力を受けていると見られます。その理由は、強く断ることができないことや、他者との適切な距離感がわからないことなどが挙げられます。

ダウン症候群の子を持つご家族に、娘が性的被害を受けないように心がけていることを伺いました。家の中で特に心がけていることは、不快なことをされたときに「イヤだ」と言えるようにする訓練です。発達障害や精神障害のある人達の中には、「場面緘黙(ばめんかんもく)」と呼ばれる症状を持つ人がいます。家族とは話をできるのに、家の外で知らない人の前だと声を出せなくなるのです。こうした症状を事前に知っていて、抵抗されないだろうと思い性的暴行をする卑劣な犯罪者も存在します。「イヤなこと」をされたら大きな声で助けを呼ぶ。自分の身を守るためにはこれがいちばん大切なのだそうです。

拒否する訓練を重ねても、突然物陰に連れて行かれるなど衝撃的なことをされると声を出せず、被害に遭ってしまうこともありえます。そうした場合にもっとも重要なのは、警察がどのような状況でどのような被害を受けたのかを聞き、犯罪行為をしっかり立件することです。障がいのある子どもの中には、自分がどういう被害を受けたのかをうまく理解できず、それゆえ家族に打ち明けることができないケースが少なくないそうです。

ですから、お話を伺った家庭では、困ったことがあった場合に詳細を聞き出せるよう毎日欠かさずコミュニケーションの機会を設けているそうです。ただ、家族が生きているうちは聞き手になることができますが、その後はどうすればいいのかと不安を漏らしていました。国など行政が役割を代替してくれたら安心と話してくれましたが、性的被害にあった際、見ず知らずの職員に相談できるでしょうか。話をしていくうちに、マイクを持たせ常に録音すればいいのではないかというアイデアも飛び出しました。そうした極論が出てくるほど対応が難しいということなのだと思います。

障がいのある子供に対する性的暴行の防止策としてよく挙げられるのが性教育の充足です。例えば、手をつなぐことやキスをすること、そうした行為の持つ意味を理解することで、相手からの要求の意味を知り、自分にとって好ましいものなのかを理解することができます。また、性教育を充実したものにすることは、障がいのある子どもたちが加害者になるリスクを軽減することにもつながります。自分の性的欲求を如何に発散するのかを学ぶこと、自分の気持ちをしっかりと相手に伝えること。これらを通じて、相手を理解し衝動的な性暴力に走らないよう予防できます。

性教育にも限界があります。例えば、重度の知的障害のある人は性教育の内容を理解することが難しいでしょう。また、力任せに拉致された場合などは抵抗のしようがありません。こうした場合のために、相手に障がいがあり抵抗できないと知っていながら性暴力を加えた犯罪者に対して、通常の強姦罪とは異なる「被害者が障がい児者であることに乗じた性犯罪」の規定を定めるよう求める声があります。こうした性犯罪は、加害者と被害者の力関係を利用した卑劣な犯罪です。この地位関係性に基づいた新たな法律を作るのです。すでにフランスでは被害者が身体障害や精神的欠損により脆弱な状態にあることが明白である場合、加重事由となり通常の強姦罪より重い刑罰が科せられます。卑劣な犯罪を抑止する一助になるでしょう。

障がいのある子どもが性に関する知識を学ぶことができる環境を整備すること、障がい者に対する性犯罪に対して厳格な法律を整備すること。いま必要な取り組みはこの二点だと考えます。被害者を一人でも少なくするために最善の努力を積み重ねなければなりません。

 

 

 

 

 

参考記事

17日付 朝日新聞朝刊 1面 「(子どもへの性暴力)第7部・狙われる障害:1 信頼していた施設で娘が」関連記事27面「(子どもへの性暴力)第7部・狙われる障害:1 抵抗できない特性、標的に」

 

参考資料

特定非営利法人しあわせなみだ HP http://disabled.shiawasenamida.org/