若き天才をより多く発掘するために

2019年、10歳の女の子が最年少囲碁プロになるというニュースを見て、もうこれ以上若い子など出てこないのではないだろうか、そんな風に思ってからわずか3年。8月17日、関西棋院は、藤田怜央君(9歳4か月)をプロ採用すると発表した。これは日本だけでなく、囲碁先進地の中国・韓国・台湾を含めても最年少の記録となる。「記録は破られるためにある」というがまさかこんなに早く塗り替えられるとは。

今まで最年少だった仲邑菫二段と同じ「英才特別採用試験」での合格者となる。ただ、仲邑さんが受けた日本棋院の試験とは異なり、今年から新たにこの制度を導入した関西棋院にとっては藤田君が初の合格者だ。関西棋院の規定によると、この試験は

候補者の将来性を最重視し、関西棋院を代表する棋士による試験碁1局と個人提出の2局、併せて3局の棋譜を賞金ランキングトップ10の棋士により棋譜審査を行い、3分の2以上の推薦と審査役の3分の2以上の賛成により入段を認める

というもの。採用年齢は原則12歳未満。入段直後は準棋士扱いで給料はなく、対局料も半分。30勝して二段に昇段すると正棋士扱いになるという。

将棋でも同じような制度は取り入れなれないものか。どうしても将棋好きとしては、そちらに考えがいってしまう。現在五つのタイトルを保持する藤井聡太竜王も幼少期からその才能は周囲に知られていた。こんなエピソードがある。詰将棋解答選手権という、玉の逃げ場をなくす手順をどれだけ早く見つけられるかを競う大会でのことだ。当時8歳だった藤井はいきなり高得点を挙げて関係者をざわつかせたという。そこから4年、小学6年生のときに史上初となる小学生での優勝を飾った。これほどの才能があれば特別な枠などは設けなくてもプロになること自体は間違いないだろう。しかし、出来るだけ早くプロになることには大きな意味があると思う。あくまでこれは筆者の見解だが。

アマチュアの私ですら、オンラインの練習将棋で格上の人と対局した後は強くなった気がする。1度だけプロ棋士に指導対局をしてもらう機会に恵まれたが、対局後に良くなかったところを丁寧に解説してもらったおかげで、考え方や手の選び方が見違えるほど変わったと思う。これがプロ。それも勝ち負けの重みが違う実戦の場ならどれほど得るものがあるだろうか。より洗練された人たちにしか見えない世界がある。それを生で体感するという経験は、最高峰のプロを目指す者にとっていくらあっても足りるものではない。

囲碁も将棋も、最近は活躍層の若年化が見られる。この流れを止めないためにも、そしてその後も第一線で活躍を長く続けてもらうためにも、積極的に金の卵たちを発掘して育てたい。より高いレベルへ到達できるように、特別枠を検討してもいいのではないか。

 

参考記事:

18日付 朝日新聞朝刊 1面 「9歳4か月 最年少囲碁棋士」 関連記事24面(「最年少棋士 夢は世界一」)

18日付 読売新聞朝刊 29面 「囲碁 最年少9歳プロ」

18日付 日本経済新聞 30面 「小3、最年少囲碁プロへ」

 

参考資料:

一般財団法人関西棋院 英才特別採用規定|一般財団法人関西棋院 (kansaikiin.jp) 「英才特別採用規定」