石油のグローバルガバナンス

ここ数年、日経新聞を読んでいると「脱炭素」や「再エネ」という言葉を目にしない日はありません。7月23日の朝刊では「脱炭素担当相を新設」(5面)、「INPEXは…南米とアフリカの資源開発から撤退する。脱炭素の流れで…」(7面)、「中国に対抗する再生エネ戦略を」(9面)、「(鉱業世界首位のBHPが)脱炭素にらみ石油・ガス売却」(11面)、「(ダイキン工業が)「脱炭素」空調 米に供給へ」(15面)、「(日本製鉄が新技術の開発を通じて)脱炭素化に貢献したい考え」(15面)など。経済界では、現在最も重要なトレンドと言って間違いないでしょう。

ただ、世界中で再エネの導入がどれだけ進んだとしても、化石燃料の需要が完全に蒸発することはあり得ません。エネルギー研究の第一人者であるダニエル・ヤーギン氏の『新しい世界の資源地図』によると、コロナ前に1億バレルだった世界の石油消費量は、2030年代半ばにピークアウトするものの、2050年には1億1300万バレル前後。抜本的な気候変動対策が実行されても日量6000万〜8000万バレル程度にしか下がらないと予測されています。つまり当分の間、石油は世界のエネルギー源として重要な地位を維持し続けます。

ということで、今回は石油の歴史とグローバルガバナンスについて少し紹介したいと思います。世界の石油産業は、1970年代頃までセブンシスターズ(メジャーズ)と呼ばれる欧米企業のカルテルによってほぼ独占されていました。バリューチェーンの上流から下流、すなわち採掘から輸送、精製、販売まで全てを牛耳り、産出地域への恩恵は薄い状態でした。しかし、60年代から資源ナショナリズムが勃興します。石油輸出国機構(OPEC)やアラブ石油輸出機構(OAPEC)が結成され、73年の第四次中東戦争を契機に、中東の産油国は石油の価格決定権と利権を掌握しました。オイルショックで経済危機に直面した先進国は、国際エネルギー機関(IEA)を結成し、エネルギー安保の強化を図りました。

80年以降は、産油国主導のOPECと消費国主導のIEAが互いに駆け引きを重ね、生産量と価格は上昇と下降を繰り返します。その中で、それぞれ新しい問題を抱え始めました。OPECは、メキシコなど非加盟国による産油量が増加したことで価格を思い通りに操作できなくなりました。加盟国同士で揉めるようになり、脱退する国も続出。IEAは経済協力開発機構(OECD)の枠内における機関であるため先進国しか参加できず、中国やインドなど大消費国に影響力を及ぼせないという課題に直面しました。

そこで2010年代から、それぞれ「OPECプラス」「IEA Association」という枠組みを新設して、影響力の維持や拡大を図っているのです。下の図を参照すると、様々なネットワークが多重に張り巡らされていることが理解してもらえるかと思います。この中でも、特に三大産油国たるアメリカ、ロシア、サウジアラビアが主導権を握ろうと日々しのぎを削っています。

風力、地熱、太陽光、水素、アンモニアなど、再生可能エネルギーばかり注目されがちな今日です。しかし、石油のグローバルガバナンスにも注目してエネルギー戦略を立てることが、企業や国家にとって重要だと思います。