「中国人口減に危機感 世界一陥落予想」
いよいよか。見出しを見た時、率直にそう感じました。2027年ごろと予測されていた中国とインドの人口逆転が、2023年に早まるという国連予測が出ました。現在首位の中国をインドが追い抜き、1位に躍り出る形になります。
この予想を受け、経済的な地位は大方変わらないなど、さまざまな憶測が発表されています。では、政治的な行動はどうでしょうか。紙面では台湾緊張は高まると指摘されています。国力の衰退は軍事行動を引き起こしかねないといい、米タフツ大のマイケル・ベックリー准教授は「中国が本格的な衰退に陥る前の20年代を『最後のチャンス』ととらえ、台湾侵攻に踏み切る可能性がある」と述べています。また、太平洋地域の安定をはかった安倍氏の訃報を受け、台湾にも不安が流れています。
一方、筆者が台湾有事と同程度に懸念したのは自治区への締め付け強化です。中国は以前からウイグル自治区における強制労働、再教育施設での拷問、強制不妊治療等の「ジェノサイド」を行なっていると批判されています。内モンゴル自治区では、民族の言語を使わずに漢語での授業を強制する圧政が行われています。
こうした問題の背景には、儒教の考えである「大一統」をベースに強固な国土統一を至上とする共産党が、自治区の「独立」は国家を脅かすと恐れていることがあります。
ウイグル自治区などはかつて独立した国家を持った経験があり、かつ自民族の宗教、言語を持つ主体性の強い民族であるがために党は独立を恐れています。実際、ウイグル自治区では90年代、さらには2007年にも幾度となく独立を目指して運動を起こしています。
こうした背景や国家観が関係してか、共産党による自治区への弾圧は、排徐というよりも同質化を求める性格が強いと思います。
例えば、ウイグル自治区で行われる再教育施設での党代表への崇拝や自己批判はまさに同質化を目指す内容です。長時間にわたる体罰、薬物注入による意識混濁を引き起こした後に自己批判や党代表の賛美が始まるといった報告をよく目にします。他にも内モンゴルでの漢語教育はまさに緩やかな文化的圧政であり、他民族の思想や言語を自民族の慣習に統合させ、同化させる取り組みです。
自治区が独立をすることを防ぐために弾圧を行っていることは明白です。また、自治区の人々を統一された国家の一部として考え、自国の力として換算しているからこそ、漢化が広く熱心に行われているのではないでしょうか。彼らは、大切な国力の一部でもあるのです。
今回の人口減少が国力低下の懸念に繋がるのならば、痛手となる民族独立を防ぐために他国にいるウイグル人を弾圧することさえも考えられます。結びつきを強める宗教、言語に関する文化面での圧政は更に強まるのではないでしょうか。
強大な国家観を持つ中国は、今後の人口減少でどう動くのでしょうか。暴力性を帯びたニュースが飛び交う不安定な現代だからこそ、一つ一つのニュースから自分なりの予測を組み立てて動いていくことは、世界と向き合う勇気をより強固にしていく作業に思えます。
【参考記事】
7月18日付 読売新聞朝刊 7面[国際] 中国人口減に危機感 世界一陥落予想
【参考文献】
ウイグル人に何が起きているのか 福島香織PHP新書
周縁からの中国 毛里和子 東京大学出版会
墓標なき草原 楊海英 岩波書店
中国の「大一統」回帰とその影響-南シナ海問題を中心として- 山本秀也