核保有国と非核国 溝を埋めるには

ウィーンで開かれていた核兵器禁止条約の初の締約国会議が23日に閉幕しました。この条約は核兵器を使う、持つ、作る、使うぞと脅すといった行為を禁じており、2017年に国連で採択。現在までに65カ国・地域が批准しています。今回はオブザーバーを含む83カ国・地域が参加しました。

一方で、米中露などの核保有国や「核の傘」にある国々は参加していません。条約が核の抑止力としての役割も否定しているからです。アメリカの「核の傘」を含む戦力に依存する日本も、オブザーバーとしての参加を見送りました。核禁止条約に肯定的な姿勢を見せれば、日米間の信頼を損なうという懸念があったからです。

核なき世界の実現という理想と、核保有国の主張する安全保障上の問題という現実。この対立する二つの意見について、唯一の被爆国日本で暮らす私たちはどう向き合っていけば良いのでしょうか。

「君は長崎の出身だけど、核兵器や原爆についてどう考えていますか?」。就職試験の面接練習の際、このような質問を投げかけられたことがあります。その時の自分は、「核兵器は廃絶させなければいけないものだが、現在、日本がアメリカの核の傘に頼っていることや、周辺国との関係を考えると今すぐにそれを実現するのは現実的ではない」と答えました。小学生の時から毎年受けてきた平和学習で学んだことや、被爆者である祖母の話が頭に浮かびましたが、当時の自分自身が出した素直な答えだったと思います。

この考えは今でも変わることはありません。ウクライナに侵攻したロシアが核の脅威をちらつかせていることや、北朝鮮のミサイル発射実験など、現在の世界情勢を見た際、アメリカの核に全く頼らずに日本の安全保障を考えることはできないと思います。今回の会議に日本がオブザーバー参加しなかったこともこのような事情から理解できます。

しかし、現状のまま何もしないでいて良いわけでもないと考えます。最終的に目指すべきは核兵器の廃絶です。そのためには保有国側の努力が不可欠になります。

今回、核兵器禁止条約の締約国会議の政治宣言では、保有国側を非難するだけではなく、対話をしていくという姿勢が見られました。

不拡散条約の変わらぬ価値を評価したうえで、両条約間の「調整役」を設けるなどの行動計画を定めた。

また、核禁条約を保有国が批准した場合、原則10年以内の核廃棄を義務づけることも決めた。(6月25日付朝日新聞社説)

日本は唯一の被爆国として、核保有国と非核国の架け橋とならなければならない立場にあります。今後も核禁条約の会議に参加もせず、その役割を担っていけるのか疑問に感じます。日本には米国との関係性という問題が、保有国には各国それぞれの事情があるのかもしれません。だからと言ってずっと主張を変えなければ、廃絶という理想に近づくこともありません。今回、非核国側が示した対話の道筋に保有国側がどう応えていくのか、そしてこれからの日本の姿勢に期待したいです

 

参考記事:

6月21日付読売新聞オンライン「核兵器禁止 情勢厳しく 初の締約国会議 開幕へ」

https://www.yomiuri.co.jp/world/20220621-OYT1T50033/

6月25日付朝日新聞デジタル「核廃絶、溝深くても 「保有国、時間かけ巻き込む」 核禁条約会議」

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15334539.html

6月25日付朝日新聞デジタル「(社説)核禁会議閉幕 廃絶へ対話求める重み」

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15334479.html