若者の投票率 上げるためには

中学3年生の頃、社会科の授業中に先生が私たちにアンケートをしました。「選挙に行ける年齢になったら、選挙に行きますか?」。その質問に「行く」と答えたのは筆者を含めた2人だけでした。まだ選挙権がないとはいえ中学3年生。選挙や政治に関する基本的な知識は授業で学びました。それにも関わらずここまで自分が住む国の政治に関心がないのかと衝撃を受けた記憶があります。

  中学生だったクラスメートも今や20歳です。驚くほどに低い現在の若者の投票率を見ると、まるであのクラスが未来の縮図だったのかのように思えます。10代の投票率は43.1%、20代は36.5%と共に全体の投票率である55.9%を大きく下回っています。

総務省データより筆者作成

 

どうして、若者の投票率はこれほどまでに低いのでしょうか。「日本の未来に対して希望を見いだせず、投票しても何も変わらないと考えているため選挙に行かない」という説があります。確かに、急速に進む少子高齢化、膨らむ国の借金、止まらない円安など日本の政治や経済に関して報道されるのは暗いニュースばかりですし、選挙で誰を選んだところでこれらの問題は解決できないだろうという悲観的な考えがあるのも事実だと思います。

しかし、筆者はもっと根源的な問題があるのではないかと考えます。投票に行かない若者の意識は、「どうせ選挙に行っても何も変わらない」ではなく、「政治は近寄りにくいもの」の方が近いのではないかと思うのです。

筆者は、政治問題や社会問題等について人と話すのが好きです。しかし、一部の授業を通して知り合った友達以外にそのような話をすると、「真面目だね」と若干引いたような感じで言われます。政治について語ったり、深く考えたりするのは真面目で意識の高い人がすることだという先入観が根付いてしまっているのだと思います。この「真面目で意識の高い人」というのが誉め言葉ではないことは、言うまでもありません。

政治は本来、国民誰もが真剣に向き合わなければならないものだと思います。日々の暮らしや国の未来に直結するものだからです。政治が、意識が高い人の高尚なお遊びや趣味のように捉えられている状況は喜ばしくありません。

そんな離れてしまった若者と政治の距離を近づけようと取り組んでいる市民団体があります。映像作家ら3人が発起人となった市民団体「VOICE PROJECT」です。ここでは、昨年の衆議院選挙の際、「VOICE PROJECT 投票はあなたの声」と題した動画を投稿しました。菅田将暉さんやONE OK ROCKのTakaさんら14人の著名な俳優やミュージシャンらが投票を呼び掛ける内容で、70万回以上も再生され話題を呼びました。

若者に人気のある芸能人が、投票を呼びかけることは、「好きな芸能人が投票に行こうと言っているから行こう」と考える人を増やすだけでなく、政治に対する距離感を縮め、拒絶感を弱める役割も果たす効果があると思います。編集作業を担当する映像作家の関根光才さんは「今回もそれぞれが今思っていることを率直に語ってくれた。こうして対話できる社会になった方が、みんな息苦しくないですよね」と語りました。政治に対して発言したり、考えたりすることを自然なこととして受け入れられるようになったら、もう少し政治に関心を持ち、選挙に足を運ぶ若者も増えるはずです。

「VOICE PROJECT」は、3日後に迫った参議院選挙の公示に合わせ第二弾の動画を公開する予定です。これで若者の投票率が伸びるかは分かりません。ですが、このような試みを続けることで少しずつでも社会の雰囲気が変わっていってほしいと思います。

 

参考

6月19日付 朝日新聞デジタル「たとえカタツムリの歩みでも 私たちが『投票します』の声を撮る理由」

2021年10月19日付 朝日新聞デジタル「『投票します』二階堂ふみさん、小栗旬さんらの動画 発起人の思いは」

2021年10月23日付 朝日新聞デジタル「Z世代、本当に政治無関心?『意識が高いと…』『演説で心動いた』」

 

総務省ホームページ 国政選挙における年代別投票率の推移について

「VOICE PROJECT」ホームページ