障がい学生支援 明治大学の取り組み

2016年4月に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が制定されたのを機に、日本の各大学は障がいがある学生の支援に力を入れています。対象となる学生は全国で約3万5千人いますが、支援の実態はいま一つわかりません。そこで明治大学障がい学生支援室の近藤裕樹さん(46)にお話を伺いました。

 

明治大学中野キャンパス

 昨年、明治大学で支援を申請した学生は40人でした。申請を出していない学生を含めると大学当局が把握している人数は79人になります。その約9割が発達障害と精神障害です。発達障害と一口にいっても内容は様々であり、学生一人一人と面談を重ね、各々に合った対応をとる必要があります。例えば、ADHDの学生への支援で代表的なものはスケジュール管理の指導です。何事もとにかくメモし、定期的に内容を確認するように指導します。こうすることで、物忘れが激しいADHDの学生でも期限をまもれるようになるケースが多いそうです。それでも難しい場合は担当教員に提出期限を延長するよう求めます。

また、オンラインから対面へと授業形式が変わったことで、環境の変化に適応できない学生も少なくありません。キャンパスに行こうと思ったものの、体がついていかない。そんな学生が続出しています。そのため、例年であれば学期の前後に集中する支援申請が、今年は大型連休後も続いています。筆者が取材に伺った5月26日も、職員の方たちは申請の処理に追われていました。

支援室の職員は3名だけ。当然のことながら一人一人の学生を直接サポートすることはできません。そこで活躍するのがサポート学生です。主な業務は、聴覚に障害がある4人の在者に対するノートテイクです。教員の発言をすべて記録にとどめることで勉学を支援するのです。ただ、成績に直結するノートテイクでは、発言内容を完璧に近い形で残す必要があります。こうした専門技術が求められるため、サポート学生は必ず長時間にわたる講習を受ける必要があります。

コロナ禍において対面での講習ができませんでした。昨年度までは以前からいたサポート学生が対応していましたが、彼らは全員卒業してしまったため、現在は一人もいない危機的状況に陥っています。一刻も早くサポート学生を育成しなければならない状況です。

障がい学生にとって悩みのタネの一つが「就活」です。障害者枠で受けるのか、一般枠で受けるのか。この選択で悩む学生は多くいます。採用の難易度で考えると、障がい者枠のほうが容易だと言われています。しかし、就職活動は内定がゴールではありません。その先に社会人としての長い道のりが待っています。うまく入れても、一般枠と同じキャリアステップが用意されているとも限りません。どちらでの応募が最適なのか、学生との対話を重ねて、結論を導き出していくように努めています。

取材を通して筆者が感じたのは包括的な相談先の必要性です。明治大学には、ほかにも学生相談室やセクシャルマイノリティに向けたレインボーサポートセンターなど様々な組織が縦割りで存在しています。しかし、学生が抱える悩みは独立したものとは限りません。例えば、セクシャルマイノリティであることに悩んでいる学生が精神的にまいってしまうケースもあります。そんなとき、とにかくここに相談したらなんとかなるという窓口があったらどんなにいいでしょうか。

また、学生相談室には精神科医やカウンセラー等専門的な技能を持つ職員がいますが、障がい学生支援室にはいません。このため、支援室だけで科学的な診断をすることや、メンタルヘルスをサポートすることはできない現状があります。総合的な組織を整えれば、個々人に対して、必要な対応を迅速に取る事が可能になるでしょう。

明治大学に限らず、障がい学生に対する支援はまだまだ歴史が浅く、不十分な点は少なくありません。しかし、今後どんどん充実していくでしょう。障がいがあっても、健常者と変わらず、なんの気兼ねもなく大学に通うことができる。そんな日が近いことを期待します。

 

参考記事:

読売オンライン2021年10月29日付 「学びも出会いも「当たり前に」」

https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/feature/CO050812/20211029-OYTAT50009/

朝日新聞デジタル2018年3月24日付 「発達障害、大学が就職支援 インターン重ね得意発見」

https://digital.asahi.com/articles/DA3S13417293.html?iref=pc_ss_date_article

 

参考資料

日本学生支援機構 令和2年度(2020年度)障害のある学生の修学支援に関する実態調査

https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/__icsFiles/afieldfile/2021/10/18/report2020_published.pdf