脱石炭、孤立深まる日本
日経新聞は、G7参加国の中で日本のみが石炭火力の廃止時期を表明せず、孤立気味だと報じました。今月下旬のG7気候・エネルギー担当閣僚会合や来月の首脳会談を控える中、目下、合意文書を調整中。議長国のドイツは2030年までに国内石炭火力の全廃を各国に打診しており、英仏伊加は賛成。米国は達成時期の後ろ倒しを要求しつつも、全廃の方向性には同意しているようです。
なぜ、欧州諸国は「石炭全廃」という目標を掲げられるのでしょうか。その理由は、再エネの導入が順調に進んでいるためです。朝日新聞は、スペイン北部の工業都市ビルバオにおける、風力発電設備の生産と導入に加え、海外輸出までしている事例を紹介していました。文面からは、かなり大規模な生産が行われていることが窺えます。
スペインでは総発電量に占める風力の割合が約18%。26%で欧州一位のドイツには劣るものの、日本の1%を大きく上回ります。日本の環境意識の低さを嘆く声も上がっていますが、筆者は別の理由があると思います。気象条件により発電量が変動する風力を2割前後の水準まで頼れる主要因は「欧州大陸送電網」です。多国間で電力をやり取りするための送電線のネットワークが蜘蛛の巣のように張り巡らされています。島国の英国とアイルランドも、海底送電線を通じて大陸諸国と繋がっています。そのため自国内の発電量が減少しても、他国から多少は融通してもらうことが可能なのです。
日本でも、中国やモンゴルの広大な土地を利用した太陽光・風力発電を融通してもらう構想や、日韓、日露間の送電網を整備する案が取り沙汰されてきました。しかし、政治的な関係性を考慮すると非現実的でしょう。中国とは領土問題を抱えていて、政治的に良好な関係を維持できているとは言い難い。モンゴルは遠い上、送電時に中国領を通過するため厳しい。ロシアは今般の戦争で協力する訳にはいかなくなったので却下。韓国は比較的有力な候補ではあるものの、国家の安全保障に関わるエネルギー分野で協力できるほど、親密な関係を築けているとは思えません。
結局、電力の需給が逼迫状態に陥っても、日本は独力で対処するしかないのです。そうなると、発電量の不安定な再エネの比率はどうしても抑えざるを得ません。また、火力を石油と天然ガスだけで賄うのは量的に足りないうえ、価格抑制の観点からも石炭は必須です。
中国に脱石炭を迫るためにも、G7で一致して石炭全廃の合意に至りたい欧州諸国の気持ちは理解できます。ただ、他国に頼れない日本の立場にも配慮しつつ、合意文書の策定にあたってもらえればと思います。
参考記事:
22日付 日経新聞朝刊(京都12版)2面「脱炭素、孤立深まる日本」
22日付 朝日新聞朝刊(京都13版)4面「風力発電 二つの「脱」が追い風」