SNS 戦争の時代に一歩立ち止まってみる

陸、海、空、宇宙、サイバーと戦争領域は拡大の一途を辿ってきましたが、最近では「認知空間」が第6の領域になりつつあります。従来の物理的な軍事的手段にサイバー攻撃やSNSでのフェイクニュースでの世論誘導など、非物理的で非軍事的な手段を組み合わせた「ハイブリッド戦」によって、現代戦の様相は複雑化を極めています。

認知空間が新たに戦争領域に加わったことで、制海権や制空権ならぬ「制脳権」という言葉すら出てきています。これは文字通り「脳」を「制」する力のこと。操る側にとって都合の良い情報だけを流し、最終的には世論にまで影響を与えることを目的としています。この考え自体は昔からありますが、SNSが発達した現代ではそのスピード感は桁違いのものになっています。

・「ロシア側動画に自作自演の跡 SNSで拡散、フェイクか」(日経電子版より)

・「『だまされた』ロシア兵の後悔、拡散 SNS上、激化する情報戦 ウクライナ侵攻」(朝日デジタルより)

これらは、そうしたニュースの見出しです。ウクライナ侵攻が始まってから既に2ヶ月以上経過しましたが、この間に皆さんも「SNS」という言葉が入ったニュースを目にしていることでしょう。SNSは現代戦争のツールとして、軍事力と並んで必要不可欠なものになってきていることを物語っていると感じます。

「感情的になって判断を間違えるということよりも、むしろそれ以前に感情的になって観察をしなくなるという問題の方が大きい」

 元大学教員という経歴を持ち、『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を取って有名になった私の好きな作家、森博嗣さんの言葉です。

小学校の頃、足を踏んだか踏んでいないかという下らないことから殴り合いの喧嘩になったことがあります。殴った筆者本人は当然先生に怒られましたが、加勢してきた無関係な友人はさらに怒られていました。今になると、友人が叱られたのは、筆者を根拠なしに「正しい」と決めつけて加勢してきたからなのだとわかります。

例えば好奇心をくすぐるような、あるいはかわいそうと同情を誘うような内容で、私たちの感情にあの手この手でフェイクニュースは忍び寄ってきます。これだけ好都合かつ強力なSNSを使ったフェイクニュースがなくなることはないでしょう。さらに、簡単にいいねやリツイートのボタンをタップするだけで、誰でも発信者になってしまう時代です。

情報戦においてSNSは立派な「兵器」です。ひいてはそれを使う私たち一人ひとりも「兵器」ということになります。そうは言っても素人である私たちが数えきれないほどの情報にさらされる中、判断を間違えないことはほとんど不可能でしょう。だからこそ「事実に基づいているか」、「情報源は信用できるか」、「なぜこの情報は発信されたのか」、きちんと観察することの大切さを感じます。

自分の好き嫌いや一時の感情に流されて、あれは正しい、これは間違っていると決めつけると、情報拡散の一因子として「知らぬ間に戦争に加担していた」ということになりかねません。一歩立ち止まってよく観察し、落ち着いて考えたいものです。

 

参考記事

25日付 日本経済新聞 9面(オピニオン) 「カントが嘆く新しい戦争」

3日付 朝日新聞 23面(社会) 「ロシア侵攻 SNSも戦場」

日経電子版 「ロシア動画に自作自演の跡 SNSで拡散、フェイクか」

ロシア側動画に自作自演の跡 SNSで拡散、フェイクか: 日本経済新聞 (nikkei.com)

朝日デジタル「『だまされた』ロシア兵の後悔、拡散 SNS上、激化する情報戦 ウクライナ侵攻」

「だまされた」ロシア兵の後悔、拡散 SNS上、激化する情報戦 ウクライナ侵攻:朝日新聞デジタル (asahi.com)

ヤフーニュース「『人間も“兵器”になり得る』第6の戦場“制脳権”とは? フェイクニュース蔓延に専門家が危機感

「人間も“兵器”になり得る」第6の戦場“制脳権”とは? フェイクニュース蔓延に専門家が危機感(ABEMA TIMES) – Yahoo!ニュース