田舎でも学びを、和気町公営塾の挑戦

筆者がまだ高校生だったころ、大学受験では地方出身であることが大きなハンデであると感じました。オープンキャンパスに行くにしても、模擬試験を受けに行くにしても、実際に受験会場に行くにしても、長い移動時間や宿泊場所の確保が必要で、体力面、経済面のいずれでも疲弊してしまいます。そのため、志望校の近くに住む都会の人たちのことを羨ましく思っていました。

今から考えると、香川県高松市というそれなりに大きな都市に住んでいたこともあり、進学校や学習塾など、学びの環境という点では十分なものがあったように思います。しかし、全国には近隣に塾すらないような小さな自治体があります。今回はそんな問題を抱え、その解決に全力で取り組んでいる岡山県和気町公営塾の方に取材しました。

岡山県和気町は人口1万4千人ほどの小さなまちです。南部の比較的人口の多い地域にこそ個人経営の塾があるものの、北部や中部には塾すらありません。全国展開しているような学習塾に通うには、片道1時間ほどかける必要があり、子供にも親にも大きな負担です。そこで町教育委員会が設けたのが公営塾です。

小学5年生から中学3年生を対象に週3回、1日1、2時間程度、ALT(外国語を母語とする外国語指導助手)や近隣の大学に通う学生、社会人の地域おこし協力隊員らが、英語の授業を無料で提供しています。昨年度は、対象となる児童生徒の2割ほどに当たる81名が利用しました。また、毎年複数回、オーストラリアの小学校の児童とオンラインで交流し、同世代のネイティブが話すリアルな英語を体験します。

対象学年以外の子どもに対しても、3歳から小学4年生を対象とした「キッズ英会話」を月に一度開催し、幼いうちから英語に触れさせることで苦手意識を持たせない取り組みがなされています。こうした英語教育の積み重ねで英語力は着実に向上し、昨年度は英検準二級を受験した生徒の約66%が合格しました。

公営塾で学ぶ子どもたち(和気町公営塾提供)

 

和気町は公営塾に限らず、町全体で英語教育を推進しています。学校教育では小学校で全国に先駆けて英語の授業を開講しました。また、社会人でも英語を学べるよう、DMM英会話と契約を交わし、町民であればだれでも無料で利用できる環境を整えています。

地域おこし協力隊員の一人は、「田舎だから勉強できなかったではなく、むしろ田舎だからこそ勉強できた、そう思えるような環境を作りたい」と話してくれました。

公営塾では英語教育だけではなく、生きていく上で必要な体験をする環境も用意しています。例えば、ハロウィンやクリスマスなど、季節にちなんだイベントでは児童生徒が主体となって企画を立て、実施するのだとか。こういった点は、学習塾にはない、公営塾だからこその長所でしょう。

和気町公営塾の取り組みは、筆者自身うらやましくなるようなものでした。小中学生の時にこういった環境があったらなとつくづく思います。しかし、すべての自治体でこのような取り組みができるわけではありません。予算の確保、人員の確保など、ただでさえ人口が少なく運営が厳しい自治体へのハードルは高いものがあります。先ずは人生の選択肢があることを認識できる環境をつくること、そしてそこで得た夢を実現すべく努力できる環境をつくることが必要です。

日本の教育における地方格差は深刻です。東京都や京都府などの大都市では大学進学率が65%を超えるものの、最も低い沖縄県は40.8%。最大で17ポイントもの差があります。また、同じ都道府県であっても、税収の豊かな市区町村とそうでない地域との間には大きな落差があるでしょう。どこに生まれても、十分な教育を受けられる社会になってほしいものです。

和気町のような子どもの未来を真剣に考える自治体がふえ、地方格差が少しでも是正されることを願います。

公営塾の様子(和気町公営塾提供)

 

 

参考記事:

20日読売新聞朝刊 12版 10面「英語学習通じ 地域おこし」

 

和気町公営塾HP:https://www.town.wake.lg.jp/enterwake