「動画面接あるからエントリーを辞めた」
大半の企業で採用活動がスタートした今、筆者の周りではそのような声をよく耳にします。動画面接では、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末で撮影した動画を、企業が指定する投稿フォームにアップします。何度でも撮り直しできるのが特徴です。つい最近も読売新聞「就活ON!」で新しい面接手法として紹介されていました。業界を問わず、300社近くの企業が導入に踏み切っているとされています。
本命の新聞業界のみに絞るのはリスクが高いため、筆者は夏と冬のインターンでは多種多様な業界に応募しました。選考に動画面接を用いる企業も多く、広告代理店やテレビといったメディア、エンタメ業界、ベンチャー企業で特にその傾向を感じました。
「白の背景」「明るい照明」、そんな暗黙の了解事項を何度も耳にしてきました。自分の部屋に白い壁はあります。しかし、六畳一間の狭い部屋は、たんすや勉強机、本棚にピアノと四方八方が塞がれているため、撮影すると余計なものが映り込みます。自室以外で撮影するとして、実家暮らしのため、家族に自分の声が、それも自己アピールを聞かれることは恥ずかしく、耐え難いことでした。
苦渋の選択が大学でした。空き教室に入り、購入したスタンドを設置。そこから自身のスマートフォンで何十回と撮影を繰り返しました。昼は人通りがあるため夕方の授業の後を狙ったり、あえて早朝に通学したり…今思うと相当な重荷でした。私服で個性をアピールするべきか、無難にスーツを着るべきか、そんな悩みも生まれます。難しいのは指定された時間内に撮り切らなければならないことです。撮り直しの連続でスマートフォンのバッテリーがなくなってしまうこともしばしば。エントリーシートのように添削をしてもらうことも、動画では気恥ずかしさからためらわれるケースが多いです。
先月、日経電子版でネット就活に関する興味深い記事を発見しました。就職支援企業「ディスコ」の武井房子上席研究員の言葉が紹介されています。「近年広がってきた動画採用は企業側の評価基準が不明瞭なため、学生からは否定的な意見も多い」とのこと。さほど志望度が高くない企業なら動画面接を避ける。そんな学生も一定数いると言います。通常の面接と違い、面接官のフィードバックや反応などの手掛かりがないことも欠点の一つだそうです。これには同意します。就活生の中にはフリップなどの小道具を使う者、自身のスキルで動画を加工する者までいます。そういった細工に採用側がどれだけ寛容なのか、実のところ分かりません。
何度でも撮り直せるということは、時間をかけて企業好みの自分を作り出すことができるという風にもとれるでしょう。一時はしのげたとしても、後々ミスマッチが起こりやすくなる危険性もあります。
リクルートの調査によると、ウェブと対面の両方の就活を経験した22年卒の学生のうち、合同説明会・セミナーは「ウェブの方がよい」と答えた割合が65.7%だった。「対面の方がよい」(17.3%)を大きく上回った。一方で面接選考は「対面の方がよい」が約46%と半数近くに上る。「ウェブの方がよい」(29.9%)より多かった。
記事の続きにはリクルートの調査結果が載っています。さすがに本選考になると動画面接を最終段階に持ってくる企業は多くないと思いますが、自身のパーソナリティを評価されるなら実際に会って…と考える学生が多いことが伺えます。過去の朝日新聞デジタルによると、新卒採用選考における動画面接の合否を、AIに委託する企業まであるようです。
学生の負担が大きすぎるように思える動画面接。採用側は時間とコストの大幅削減にはなりますが、直接、顔と顔を向き合ってこそ、見えてくるものがあるように思えてなりません。
参考記事:
4日付 読売新聞朝刊 埼玉12版 15面 「就活ON!」
3月2日 日経電子版 「ネット終活、動画に利点と負担 企業の採用広報が解禁」
2020年 5月25日 朝日新聞デジタル「ソフトバンク、新卒採用にAI 自己PR動画の合否判断」