歴史上の女性リーダー 正当に評価されている?

ジェンダー格差に焦点を当てた歴史教育が脚光を浴びています。第一学習社の教科書には「世界史の中の性差」の特集ページが設けられました。欧州の魔女裁判や中国の纏足などの絵や写真からは、歴史上多くの女性が非人道的な支配を受けてきたことが窺えます。可哀想です。一方、ごく少数ながら為政者の地位に上り詰めた女性も存在します。彼女らの功績は正当に評価されているのでしょうか。

日本では、女性天皇が過去に6人(8回)存在していました。男性優位社会でありながら天皇即位まで上り詰めた方々は「中継ぎ」ではなく、相当優秀な人物だったものと推察されます。ただ、日本史の授業で扱われるのは推古天皇、持統天皇、孝謙天皇ぐらいです。それぞれ聖徳太子の親戚、飛鳥浄御原令を施行した歌人、道鏡に惑わされた暗君、というパッとしない扱い。3人の統治を詳しく調べてみると、もっと高く評価されるべきだったのではないかと感じます。皇室以外では、日野富子や淀殿がそれぞれ応仁の乱と豊臣家滅亡を招いた元凶と見なされていますが、これも再検証が必要です。

隣国に目を向けてみましょう。中国史における女帝は史上たった1人。唐の則天武后(武則天)です。彼女は任期中に独裁・弾圧を行ったため、後世の史家に「武韋の禍」の一端として非難されてきました。しかし、旧来の貴族層に対抗するため科挙官僚を登用したり、則天文字を作成したりするなど、政治の刷新を図ったことは近年高く評価されるようになってきています。

この則天武后をグーグルで検索して下さい。上位にヒットする記事は『手足を切断し酒壺投入。我が子を殺し「大きい」男を愛す熟女暴君』『叡智も残虐性も超弩級 中国史上唯一の女帝』『子供を殺して頂点を極めた悪女の一生』負の側面ばかりが強調されたタイトルが散見されます。秦の始皇帝や織田信長は、それぞれ焚書坑儒と延暦寺焼き討ちを強行したにも関わらず、「暴君」「残虐」「独裁者」などのキーワードを含む検索結果がほぼ見当たりません。あまりにも対照的で、女性に対する悪意が際立ちます。

さらに、歴史用語を幾つか考え直してみます。「中国三大悪女」や「日本三大悪女」という呼称があるにも関わらず、男性の暴君を対象とした三大カテゴリは存在しません。不公平ではないでしょうか。楊貴妃を形容する「傾国の美女」という表現も、女は乱世を招く悪因というニュアンスを含意している気がしないでもないです。彼女自身は政治に一切干渉していないのに。性差別的な語句は、掘り起こせば他にも多数あるでしょう。

誤解を避けるため明記しますが、言葉狩りをすべきだとは思いません。女性リーダーを強引に持ち上げて過大評価することも不必要です。ただ、大半が過小評価されてきた事実にもっと気付くべきだと思います。喜ばしいことに、最近の教科書は性差を補正して適正に評価しようとする動きが見られます。大河ドラマでも主人公に女性が選出されることが増えました。願わくば、その視点が歴史愛好者以外にも広まってほしい。現代のジェンダー格差の是正にも繋がっていくのではないかと期待しています。

 

参考資料:
4日付 朝日新聞朝刊(京都13版)24面「ジェンダー 教科書で多角的に」

中国の皇帝が暮らした紫禁城(18年8月筆者撮影)