花選びに「ロスフラワー」という選択肢増やしませんか?

ロスフラワーをご存知ですか。綺麗な状態のまま廃棄された花のことです。式典などで使われ、使い回せないため捨てられるもの、一度店頭に出たが売れ残ったもの、生産が多すぎて農家で廃棄されるものなど様々です。コロナ禍ではイベント自粛により需要が低迷し、一段と廃棄花が問題視されるようになりました。

この状況を打開しようとロスフラワーを取り扱う花屋があります。世田谷区にある駒沢オリンピック公園の近く、名前は「#flowership」。人と人との結びつきを意味するrelationshipを花の力でつくりたいという思いが込められています。店に並ぶのは、農家から市場に回る前に捨てられるはずだった花々。農家と市場をつなぐ仲卸業者がさばききれなかった在庫、イベントの中止によるキャンセル品、海外から時期外れの品種をまとめて取り寄せる際に出る余剰などです。

世田谷区にあるロスフラワーを扱う花屋「#flowership」(20日筆者撮影)

 

店先にはロスフラワーを説明する黒板が(20日筆者撮影)

代表の塚田茉実(まつみ)さんは大のお花好き。毎週のルーティンは花を買うことで、大学時代には1人暮らしをしながらベランダいっぱいの花を育てたほどです。リクルートに入社し、業界の問題解決を仕事にしていた塚田さん。花き業界が直面している廃棄問題や低賃金、重労働など数々の課題を目の当たりにします。また幼少期をイギリスとアメリカで過ごした経験も店を開くうえでヒントになりました。気軽に花を買い、贈り合ったり飾ったりする海外に比べ、日本では敷居が高い嗜好品というイメージが強い。花離れが進めば問題はいつまでも解決しないと考えました。

実際に総務省が2020年に実施した家計調査では、2人以上の世帯での切り花購入額は8152円と、ピーク時である1997年の1万3130円から約4割も減ってしまいました。まずはロスフラワーを身近に感じてもらい、花を買うことが習慣になってくれればと株式会社DESiRE TOKYOを立ち上げ、店をオープンしました。

株式会社DESiRE TOKYO代表取締役 塚田茉実さん(20日筆者撮影)

店を彩る花たちは、ロスと言われないと分からないほど綺麗に咲いています。人の手に渡るほど痛みやすいと言われていますが、#flowershipにあるのは市場に出る前の花。街に出回っているものより日持ちしないというわけではないようです。ほとんどの売値を380円にして、買い手が本数だけで値段を計算しやすいようにしました。

店内には色とりどりの花が並ぶ(20日筆者撮影)

店から廃棄を出すわけにはいきません。売れ残りが生まれそうになった時はお客さんにプレゼントしたり、ドライフラワーにしたりと工夫を凝らします。仲卸業者から何が届くかは来てみてからのお楽しみ。このため店頭の品揃えは買い付けの度に変わります。お店に来ないとラインナップが分からないというゲーム感覚が常連さんの楽しみにもなっており、塚田さんが目指す花を買う習慣が広がりつつあります。

筆者がお邪魔したときもお客さんは絶えません。塚田さんは必ず「直接手に取っても大丈夫ですよ」と声を掛けます。痛みやすいから触らせないのでは、花と距離ができてしまうからです。

「実際に触って、自分の手の中で色を組み合わせてみてほしい」

大学を卒業する自分自身へのご褒美にブーケをつくろうと、ガーベラを手に取りました。幼稚園の卒園式でもらった思い出深い花にスイートピー、チューリップ、ユーカリを添えてもらいました。希望、門出、思いやり、新生という花言葉を持つブーケが実社会に踏み出す私の背中をそっと押してくれているようです。気持ちが沈んだとき、勇気がほしいとき、誰かを労わりたいとき、何でもない日にも花を手に取ってみてはいかがでしょう。品種、色を選ぶ際には、ぜひロスフラワーという選択肢も。

皆様の門出を祝して(20日筆者撮影)

 

参考記事:

21日付朝日新聞朝刊(東京14版)35面「コロナ下のリアル卒業式」(社会)

同日付日本経済新聞朝刊(東京13版)1面「春秋」

同日付読売新聞朝刊(東京14版)34面「東京桜咲く」(社会)

参考:

家計調査(総務省,2020年)

1世帯当たり年間の品目別支出金額,購入数量及び平均価格教養娯楽「教養娯楽用耐久財」~「書籍・他の印刷物」)

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今月末であらたにすを卒業いたします。そのため本日の記事が最後の投稿となります。

お忙しい中取材にご協力いただいた皆様、記事をお読みいただいた読者の皆様に感謝申し上げます。

濱野琴星